日本語版発売10周年。高度なパロディという名の”救い”と完成度に唸る良作『ガンマンストーリー』

当時、『ロックマン』の新作を求めていたファンに“救い”を与える作品でもあった?

 そんな『ガンマンストーリー』には、『ロックマン』ファンが新作を渇望する思いを少しだけ満たしてくれる作品としての見どころもあった。

 カプコンの看板タイトルである『ロックマン』は2013年当時、“冬の時代”真っただ中にあった。事の発端は割愛するが、当時は家庭用ゲーム機向けの新作が相次いでお蔵入りになってしまい、残念なムードが漂う中でシリーズ生誕25周年を迎えた時期だった。大きな節目であるのにもかかわらず新作が登場せず、もう今後『ロックマン』の新作は遊べないのかもしれないと、絶望すら感じさせるあの状況は、シリーズを追いかけていたファンの心を傷つけるには十分すぎる負の力があった。

 そのような最中に発売された『ガンマンストーリー』は、わずかではあるものの、『ロックマン』の新作を遊んだ心持ちにさせてくれる、救いのタイトルだった。

 というのも、じつは『ガンマンストーリー』には『ロックマン』をリスペクトしたであろう要素・ネタが大量に盛り込まれているのだ。まず、画面左上に表示された体力ゲージの時点で、完全に『ロックマン』のそれである。拳銃のショットが直線状、連射が3発までというのも『ロックマン』の仕様をなぞっている。しかも、ステージのあちこちでハシゴを上り下りする場面まであり、「もはや隠す気がないのでは?」と思うほどだ。

 とくに面白いのがステージ内に登場する敵の配置、出現パターンに注目した場合だ。じつはアクションゲームの『ロックマン』の敵の配置、出現パターンには一定の法則が設けられている。

 以下は『新装版 ロックマンマニアックス 下巻 短編・設定&対談編(復刊ドットコム刊)』に記載されている、漫画家・ありがひとし氏と『ロックマン』シリーズ生みの親であるA・K氏の対談(176ページ)からの一部抜粋である。

 1. 雑魚敵は単体で3~4体の連続出現(他の敵との複合攻撃をなるべくさける)。
 2. この連続出現した敵は全て同じ攻撃をする。
 3. この連続出現した敵は地形によって難易度をつける。
 4. この連続出現した敵の難易度は徐々に上げて、最後の1体で下げる。

 このパターンを頭にいれた上で『ガンマンストーリー』を見てみると、この法則を完全な形ではないにせよ、ほぼ忠実に踏襲しているのがわかる。

 敵はほぼ決まった位置で登場し、最大でも5体以上は登場しない。また、同じ敵であっても狭い足場といった地形によって差をつけることで、手ごわさを表現しているのだ。

 極めつけが終盤のステージだ。あらためて紹介するが、『ガンマンストーリー』は西部劇を題材にしたアクションゲームである。そのため、舞台となるステージは荒野、町、列車といったその世界観に見合ったものが中心である。

 だが、終盤にこの方向性は崩壊する。西部劇という題材を完全に無視した地形と仕掛けが登場するようになるのだ。それと同時に、初代『ロックマン』で見た覚えのあるような仕掛けも登場するようになって、完全に「ガンマン」から「ロックマン」になってしまう。

 詳しい一部始終は見てのお楽しみとするが、『ロックマン』シリーズを遊んだことがある方であれば、嫌でも思ってしまうだろう。「これって『ロックマンW(ウェスタン)』という新作なのでは?」と。念のためだが、“W”だからといって主人公は「ワイリー」ではない。

 そんなわけで、本作は悪く言ってしまえば、パロディ全開の内容なのだが、それでもあの当時からすれば、“『ロックマン』っぽい体験”を提供してくれる救いの作品でもあった。

 敵の法則に関する正確さなど、理解度の高い部分も多く、いまあらためて見返してみても、開発者の研究心の高さと『ロックマン』への愛を感じさせられる。

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 とは言え、ゲームそのものは全くもって『ロックマン』ではない。そもそも自由にステージを選んで進めていくシステムはないし、ボスを倒すと新しい武器が手に入って、戦術の幅が広がる、といったことは断じてない。

 前述したように、武器というより、銃から放たれる弾丸はアイテムを取ると変わる仕組みで、この辺りは『ロックマン』というよりはKONAMIの『魂斗羅』シリーズからの影響も感じられる。実際、弾丸の一部には“明らかにそれを真似たもの”が存在したり、ボスにも『魂斗羅』シリーズに登場しても違和感のない、荒唐無稽な個体が登場する。なので、本作を『ロックマン』みたいなゲームと表すのは半分正解、半分不正解というところだろうか。

 本作は、パロディ作品として見た場合において非常にレベルの高い仕上がりであった。繰り返しになるが、それがあの当時の『ロックマン』シリーズが置かれた状況下では輝きやすく、僅かな救いをもたらしてくれた。それを思うに、本作は3DSというプラットフォームに限らず、時代にも恵まれたゲームだったと言えるのかもしれない。

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