三浦透子が語る“声”で届ける物語の奥深さ 作品を「媒介」している感覚とは

 耳で聴く書籍・オーディオブックやPodcastなど、数多くの音声コンテンツを制作・配信するAmazonオーディブル。オリジナル作品にも力を入れており、2021年に新たな取り組みとしてスタートさせたのが「オーディオファースト」だ。作家の書き下ろしオリジナル作品を、オーディオブックとして先行配信後に、書籍としても出版していくという音声コンテンツの新形態ともいえるオーディオファースト。今回作家として村田沙耶香が執筆に参加し、その朗読を俳優・歌手の三浦透子が行い、オーディオブック化され、10月20日から配信される。

 かねてから村田作品のファンだという三浦はどのような想いを込めて朗読に挑んだのか。また、俳優・歌手など幅広い表現をする彼女のなかでの“声”の存在感とは。(リアルサウンド編集部)

村田沙耶香が収録現場に突如来訪

ーー今回、村田さんの作品『無』の朗読に参加してみていかがでしたか?

三浦透子

三浦透子(以下、三浦):ありがたいことに、村田さんサイドからのご指名で参加させていただいたんです。私もかねてから村田さんの作品を読ませていただいていたので、とても嬉しかったですし光栄でした。実は収録の際に村田さんが見学に来てくださって。

ーーそうだったのですね!ご本人の前で収録するのは緊張しましたか?

三浦:緊張はしましたが、ありがたい経験でしたし、実際に「聴けてよかった」とすごく嬉しいお言葉をいただいたので、少しホッとしました。それと、個人的に声のお仕事が好きなので、こういった朗読という形で取り組ませていただけて、とても良い経験になりました。

ーーこれまでに朗読の経験はあるのでしょうか。

三浦:朗読はあまり経験がありません。ただ、ナレーションや歌のお仕事はやってきたので、「声を録音する」という行為に関しては長い間考えてきたというか。いろんなお仕事をさせていただいているなかでも、ずっと興味深いもののひとつです。

ーー収録に挑む前に朗読の練習はしましたか?

三浦:声を使うための基本的な準備はしましたが、一口に朗読といっても、演劇的なものにするか、客観的に捉えられるようなものにするのかなど、演出の方のオーダーは様々なので、なるべくその場で対応できるようにという気持ちで臨みました。

ーー具体的にどのように演出をつけていったのでしょうか。

三浦:まずはフラットに、客観的な視点で読むというところから始めました。そこからもう少しセリフっぽくしようとか、テンポを早めてみようという演出をいただいて少しずつ調整していきました。

ーー難しかったところはありますか?

三浦:書かれている言葉には、文章で読んだ時と比べて、音になるとキャッチしにくいもの、しやすいもの、それぞれあると思います。少なくとも文章で読んだときと同じだけの情報は伝えたいという思いが私のなかにありました。こちらの感情を優先してしまって、言葉が聴き取れなかったら意味がないと思うので。そのバランスはすごく難しかったです。演出の方とコミュニケーションをとっていく間で、私たちのベストな状態にしていったという感じです。

ーー今回、村田さんが書き下ろした『無』という作品を読んでみて、三浦さんは率直に何を感じましたか?

三浦:この作品は、突然若者たちに舞い降りた「無」ブームとともに、世界各地に「無街」が建設されて……という世界観のお話なのですが、こういった今現実にはないルールのようなものを1つ用意されることによって、もしも世界がこうだったら、自分はどのように振る舞うだろうと考えさせられる。今ある普通みたいなものを一度疑ってみる。疑うことで違和感の本質に近づく、自分自身の何かがあぶり出されるような感覚がありました。

ーー現実にはない世界観を声だけで伝えるのはとても難しいことかと思います。

三浦:「音で物語を伝える」ということをどう解釈するか、という難しさでもありました。書かれている情報が正確に伝わるように読むということなのか、その作品の世界観に沿って読むということなのか。「無」という場所が存在する世界で生きている人たちにとって当たり前に使う言葉でも、その世界と初めて触れる聴き手にとっては馴染みのない言葉もある。物語の自然さによりすぎると、耳でキャッチしきれず流れてしまう可能性もあるのでそこが難しかったですね。登場人物にとってのリアリズムと聴き手への親切さのバランスは慎重に判断したつもりです。

作品に対して「媒介」しているという感覚

ーー今回、聴き手にどう受け取ってほしいかなどの思いはありましたか?

三浦:作品がまず先にあるとき、私の中に「媒介する」という感覚があるんです。今回も、私が何かを乗せてどうこうというよりかは、ここにある作品が持っている、その魂みたいなものをそのまま届けたいなと思いました。

ーー先ほども仰っていましたが、キャラクターに対して自分の感情を優先させなかったというのは、そういった「媒介する」という気持ちからきているのでしょうか。

三浦:そうですね。自分の声や体を使っている時点で、完全に混じり気のないものを届けるということにはならないと思いますが、なるべく聴き手の解釈の幅を狭めない形でという思いで臨みました。

ーー今回は朗読で「作品を届ける」というものでしたが、俳優や歌手として「作品を届ける」というときと共通することなどありますか?

三浦:「媒介する」という感覚は共通してあるものだと思います。ただ、どの視点に立って表現するかによって自分の介入の仕方は違ってくると思います。お芝居の時は、基本的にはその物語の中の人として喋ります。ナレーションは外からの視点で。歌はその中間くらいで朗読もなんとなくそのあたりにあるような気がします。

ーー自身の体で伝えるという解釈はありながらも、三浦さんの目で見たり聴いたりした作品の生の情報をそのまま伝えたいという思いのもと、様々な表現活動をしているのですね。

三浦:どの表現をするときも、作品を最初に受け取った時に感じた魅力がいちばん伝わる形で自分の体を使えたらと思っています。

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