テーマは“伝統からの脱却”? 『Omega Strikers』はMOBAの新定番となれるか
“伝統からの脱却”がもたらした新たなゲーム性
1990年代後半、『StarCraft』『Warcraft』などの登場によって世に誕生したMOBAは、2000年代の『Defense of the Ancients(Dota)』や『League of Legends』(以下、『LoL』)のリリースを経て、その地位を確立。現在まで歴史を紡いできた。当初は「コアゲーマー向けで専門的」といった色が濃い同ジャンルだったが、近年は人気IPとのコラボレーション、他ジャンルとの融合により、特有のゲーム性を敬遠していた層、ライト層にも少しずつ受け入れられ始めている状況だ。
特に2021年にリリースされた『Pokémon UNITE(ポケモンユナイト)』は、カジュアルさを武器に、MOBAをより親しみやすい分野へと昇華。欧米と比較し、まだ多くはなかった国内のプレイヤー人口を大幅に増加させたと考えられる。少なくとも国内においては、同タイトルの登場で潮目が変わりつつある現状となっている。
『Omega Strikers』もまた、『Pokémon UNITE』と同様の意味・文脈上にあるタイトルだ。これまでジャンルの確立に寄与してきた作品は総じて、情報に基づく戦略性の比重が大きかった。画面に映らない(もしくは見えにくい)データの把握が、有利にバトルを進めるための必須スキルであり、上達を目指すうえで知識・経験の求められるシチュエーションがあまりにも多いのだ。これは、カジュアルさを武器とする『Pokémon UNITE』にも共通する。こうした特性が、MOBAを親しみづらいジャンルとしている側面があった。
一方の『Omega Strikers』は、隠されている情報が圧倒的に少ない。マップはひと目で全容が把握できるうえ、敵のステータスやスキルも簡単に視認することが可能だ。上述した中心タイトルでは、相手の攻撃を一度受けたり、忙しいプレイのなかでリアルタイムに操作したりしなければ、そうしたデータをチェックできない。情報に基づいた戦略性が重要とされてきた同ジャンルにおいては、根本のゲーム性から脱却する大きな変更点と言えるだろう。
反面、『Omega Strikers』には他の作品にはあまり見られなかったスピード感が存在する。戦略的要素よりも、アクションスキル、情報処理の速度が求められる仕上がりとすることで、スポーツ性を組み込むことに成功している。
「思考力から運動能力へ」という必要なスキルの変化は、MOBAに新たな可能性を与えるものだ。こうした挑戦によって『Omega Strikers』は、『Pokémon UNITE』と同様の役割を担っていけるのではないだろうか。また、そこにはPay to Winではないからこその競技としての可能性もひろがる。今後の展開によっては、文字どおりのスポーツとして広く愛される未来もあるのかもしれない。
余談だが、2006年に設立されたRiot Gamesは、当時の中心タイトルだった『Defense of the Ancients』のスタッフを迎え入れ、『League of Legends』を開発した。その後の同作の飛躍は、MOBAに詳しい人であれば誰もが知るところだろう。上述したとおり、Odyssey Interactiveには、Riot Gamesの元メンバーが所属する。こうした背景にもまた、現時点以上の定着・浸透を予感させられる。
『Omega Strikers』は、MOBAジャンルの新定番となれるか。リリースからはまだ1か月のため、今後の動向を見守りたい。