『マッサージフリークス』などをめぐる騒動から「ゲームとコンプライアンス」について考える

 企業コンプライアンスや、それに基づいた創作表現における表現規制のあり方は、映像作品からマンガ、ゲームまで、あらゆるコンテンツ業界で議論を生んでいるトピックだ。と、一言でまとめてしまうと簡単だが、実際には憲法が規定する「表現の自由」との関係、残酷描写や性的な描写などの特定の表現に関する審査や規制の仕組み、その線引きなど、様々な課題をはらんでおり、慎重な議論が必要な状況にある。直近でもゲーム作品における残酷・性的描写に関する議論が各所で頻繁に展開されていることを考えると、ゲームライターである筆者にとっても他人事とはいえないだろう。

 本稿では、今年7月に話題となった『マッサージフリークス』の発売停止と「DMMがマスターカードとの決済契約を終了した」という2つのトピックを挙げ、ゲームやその他の創作物におけるコンプライアンスや表現規制のあり方について考えていきたいと思う。

批判が寄せられた『マッサージフリークス』は改題しSteamでリリース

 『マッサージフリークス』は、Nintendo Switchでリリース予定だったリズムゲームで、音楽に合わせて女の子をマッサージすることで、身体や心の悩みをほぐすことを目指すもの。リズムゲームだけでなく、マッサージを通じて好感度を上げ、女の子と仲良くなったり、マッサージ店の外でのイベントを楽しむこともできる、といった内容だ。

 そんな本作だが、女の子の衣服がはだけたり裸の様に見えたりする「なんだか とっても りらっくす もぉど(NTRモード)」などのセクシャルな要素が存在し、一部で「女性差別的だ」と批判が寄せられていたほか、登場する女性キャラクターの名前が、アイドルグループ「日向坂46」のメンバーに酷似していることも指摘され、SNSを中心に話題になった。

 開発元であるqureateは、7月18日に謝罪と合わせてキャラクターの名前を修正した旨を発表したものの、続く7月22日には本作の無期発売延期を発表。qureateは延期の理由を「関係各所と協議した結果」としており、具体的な内容を伏せているが、先に挙げた批判の影響が皆無だとは考えづらい。

 

 

 その後、8月1日に突如リリースされたのが本作のSteam版である『ビートリフレ』だ。本作の内容は『マッサージリフレ』とほぼ変わらないものの、上述したセクシャルな要素をプレイするには解除パッチを適用する必要がある。また、ストアページには本作が一部セクシャルな内容を含むことや、本作によって犯罪を誘発したり、助長したりする意図はないといった旨が記載された。タイトルの変更は、「マッサージ店での犯罪をイメージさせる」といった批判をかわすためのものだと思われる。

Steam版『ビートリフレ』

 そんな『ビートリフレ』は、件の騒動も影響してか、リリース直後はSteamストアの売上上位タイトルに名を連ねた。

DMMは「MasterCard」との決済の契約を終了

 『マッサージフリークス』と平行する形で話題となっていたのが、DMM.comの「MasterCard」との決済契約の終了だ。DMMは「MasterCard」との契約を7月29日に終了、今後のユーザーの支払い方法についてはVisa、JCB、American Express、Dinersなどのクレジットカードへの変更を呼びかけている。DMMはオンラインゲームや電子コミック、ムービーなどのコンテンツを提供しており、これらの購入にMasterCardを利用していた人は注意が必要だ。

 こちらも理由は伏せられているが、ITmediaがDMMに確認したところ、「MasterCard側と弊社のサービスでのカード決済において諸条件が折り合わず、残念ながら契約終了となりました」と回答が得られたとのことだ。(参考:https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2207/20/news178.html

https://special.dmm.com/help/card/ より

 突然の発表にネット上では驚きの声が上がったほか、今回の規制は性的なコンテンツを扱う「FANZA」の存在が影響したのではないかといった意見も散見された(尚、DMMは2018年に成人向け事業を分割しており、FANZAは現在デジタルコマースによって運営されている。また、FANZAでも同じタイミングでMasterCardとの契約を終了している)。

 兼ねてからクレジットカード会社は成人向けコンテンツに対して否定的な動きをとっており、以前にもアダルトサイト「Pornhub」は児童ポルノがアップロードされていることを理由に、MasterCardとVisaにクレジットカード決済を停止されている。

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