ゲームキャスター・yukishiroが、14年間シーンを見つめ続けた末の悲願 『VALORANT』の快挙を振り返る【前編】

――気になったんですが、最初は完全にアマチュアで実況活動していたのが、突然『TGS』という環境でデビューするというのは、かなり期待を込められていたと思うんですが、yukishiroさんのどういう点が評価されていたのでしょうか。

yukishiro:強いて言うなら、自分でも『クロスファイア』を真剣にプレイして、後にはVaultというプロゲーミングチームに所属して世界大会にも挑みました。そういった経験を踏まえ、ある程度プレイヤーの目線を活かした実況ができる点を買ってもらえたんじゃないかと思いますね。現役のプレイヤーほどではないですが、一度ゲームをすごくやり込んだ経験があるからこそ、選手のプレイの一つひとつを発見して、言語化できるのが自分の長所だと自負しています。

――それは本当に同意します。今回の『VCT』でキャスターを務めた皆様もそうですが、特にyukishiroさんの実況や解説は本当に選手に対するリスペクトが滾々と伝わるような語彙や情熱がありますよね。それは元日本代表だからという以上に、純粋にゲーマーとしての能力そのものへの敬意もあるし、だからこそZETA DIVISIONとライバルとなるチームに対しても、名プレイが出れば等しく敬意を込めた解説と称賛を贈られていると思います。

yukishiro:ありがとうございます。

――yukishiroさん個人としては14年もの間、プロゲーマーやキャスターとしてずっとFPSの世界で活動してきたわけですが、その間FPSにおいて日本が国際大会にて結果を残すことは難しかったと思います。このような背景を踏まえても、今年のZETA DIVISIONの世界3位という結果は本当に悲願だったと思いますが、yukishiroさんは率直にどう受け止められましたか?

yukishiro:率直に、とても嬉しいと思いましたよ。僕がプレイしていた『クロスファイア』は、元々『カウンターストライク』シリーズの中でも「爆破ルール(※1)」をオマージュした作品で、『VALORANT』もそのひとつ。僕も国際大会で何度かチャレンジしてきましたが、いくら国内で結果を出したとしても、練習する環境や、各地域の戦法に対する情報の違い、なにより地力の違いを実感して敗北することがあって、ずっと悔しい思いがありました。だからこそZETA DIVISIONの選手、特にLaz選手やcrow選手は『カウンターストライク』(※2)で何年も挑戦して、一時期引退を考えるとすら話していたなかで、ずっと挑戦をしてきた。そんな彼らが自分が成し得なかった結果を出したことに感動してしまいますよね。

ベスト3が確定し抱き合うLaz選手とcrow選手

(※1)攻撃側、防御側に分かれ、それぞれ爆弾の設置と解除を巡って争うルール。1999年にベータ版が公開されたMOD『Counter-Strike』に実装されたルールの一つ、Bomb Defusal(de_)モードが原典と考えられている。
(※2)『カウンターストライク』には、1999年公開のMODから『Counter-Strike 1.6』、『Counter-Strike: Source』、そして最新作として2011年にリリースされた『Counter-Strike: Global Offensive』(CS:GO)が存在し、Laz選手やcrow選手が『VALORANT』以前に「Absolute」というチームで『CS:GO』の世界大会に何度も挑戦していた。

――失礼を承知でお聞きするんですが、たとえば自分がもし同じ環境だったらまた変わったのかなと考えたりしますか?

yukishiro:まぁ、たしかに、現在の環境に対する羨ましさはありますよ。ただ、羨ましさと同時にいまの環境を作るまでの過程もありますし、だからこそ難しいこともたくさんあります。たとえば、いまではチームにプレイヤーだけではなく彼らを監督するコーチや、情報を集めて共有するアナリストも存在しますが、逆をいえばは大半のチームがこうしたノウハウを共有しているので、結局勝つことの難しさは変わらないと思いますよ。

――世間一般の方から「eスポーツ」への認知が広がったことについてはどうでしょう。

yukishiro:今回もテレビに取り上げられましたよね。でも何より大きいのは、やはり選手の活躍ですよ。間違いなく。自分もキャスターとしてゲームの面白さを拡げていくことができればと考えて活動してきたので、ZETA DIVISIONの活躍も嬉しいですし、活躍を機にいろいろな人に認知してもらえるっていうのも本当に嬉しいですよね。

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