『スターフォックス64』は、なぜ“象徴的名作”なのか? 発売25年のいま、その地位を盤石にした変化球続きのシリーズに言いたいこと
「Masterpiece」(マスターピース)。
「名作」、「最高傑作」、「代表作」などの意味を指す英単語である。
また、「ある人物の経歴の中で最も優れているとみなされる創作物」、「極めて高い水準を持った作品」との意味も存在する。
1997年4月27日にNINTENDO64向けに発売された『スターフォックス64』は、改めて振り返るとそれらの意味をほぼ全て持った作品だった。
その面白さは、ちょうど25年が経過した現在もなお色褪せず、『スターフォックス』というシリーズ作全体を代表する1本として君臨し続けている。
あのギネス・ワールドレコーズにも「世界一売れたシューティングゲーム」として記録されているほどなので、尚更そうと言えるかもしれない。
逆を言えば、25年が経ったいまも『スターフォックス64』は”代表作”の座から降りていない。『スターフォックス』シリーズになにが求められているのかを力強く語る、文字通りの象徴そのものになってしまっている。だからこそ、この作品に続くマスターピース、新しい象徴となり得る作品がなかなか出てこずにいるのである。
なぜ、そのような状況にあるのか。
なぜ、『スターフォックス64』は象徴であり続けるのか。
改めてその内容や当時の関連資料などを見返すと、その背景と『スターフォックス64』以降のシリーズが”変化球”を投げ続け、評価を盤石にした実態が見えてくる。
まさに文字通りの「マスターピース」だった正統進化系の新作
元々、『スターフォックス』というゲームは1993年2月にスーパーファミコン用ゲームソフトとして発売された。
『スーパーFXチップ』なる特殊な専用チップをROMカセットに搭載し、「スーパーファミコンでは無理」と言われた3Dポリゴンによるシューティングゲームを実現させた『スターフォックス』は、その(当時の視点から見た)革新性もあって大きな注目を集めた。
『スターフォックス64』はそんな初代『スターフォックス』のリメイク、現在の表現で言えばリブートに当たる作品。スーパーファミコンの設計上、十分な処理速度が得られなかったので本格的に『スターフォックス』を作ろう、『スターフォックス2』という資産を幻にしてしまったのでその資産を引き継ごう、というふたつのテーマを掲げて制作された。(※任天堂公式ガイドブック『スターフォックス64』開発者インタビュー、128ページ掲載のプロデューサー・宮本茂氏のコメントより抜粋)
ちなみに『スターフォックス2』はその後、2017年発売の『ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン』および、2019年配信の『スーパーファミコン Nintendo Switch Online』の収録タイトルとして復活を果たしている。
『スターフォックス64』は、『スターフォックス2』に存在した360度自在に飛び回れるステージを「オールレンジモード」なる、ゲーム内要素の一部として実装。ほかに溜め攻撃「パワーブラスター」も誘爆効果のある「チャージ弾」と、形を変えて継承された。そこに特定の敵に狙いを定める「ロックオン」、自機「アーウィン」の新アクション「宙返り」と「Uターン」、地対空戦車「ランドマスター」を始めとする別の機体といった多数の新要素を加え、初代『スターフォックス』の基本システム全般を発展・改良。
さらにはストーリーと主人公フォックス・マクラウドを始めとする登場キャラクターたちの設定周りも一新。ゲーム中にも日本語音声で喋り、無線通信を介して話しかけてくるようになって、演出面も大きくパワーアップした。
このほかにも多数の特徴、改良点があるが、長くなるため割愛する。
端的に言えば、初代『スターフォックス』を正統、かつ素直に進化させた作品。それが『スターフォックス64』だったのである。
実際、初代『スターフォックス』に存在した課題の数々は『スターフォックス64』にて軒並み改修されている。とりわけ難易度はその象徴と言えるだろう。多少、操作の慣れが必要とされるが、マスターしてしまえば自機「アーウィン」を思うがまま動かせるようになり、敵の猛攻にも的確、かつ冷静に対処できるようになる。
プレイヤーの上達を確かに感じ取れる絶妙なバランス調整は、25年が経過した今の視点から見ても職人芸と言えるほど見事で、色褪せない魅力を放ち続けている。
なにより、「撃墜数」なる最大3桁の数値で評価されるスコアの存在が上達の快感を引き立てている。上手くなればなるほど、高記録という分かりやすい結果になって返ってくるからだ。同じくプレイヤーこと、フォックスと戦いを共にする3名のチームメンバーが撤退せず、ステージクリアの時まで生き残ることも然り。
また、敵の配置や出現パターン、ボスの強さも総じてマイルドで、最初は手こずっても、数回挑むにつれて突破口が見えてくるよう設計されているのも秀逸。複数の分岐が設けられた本編もルートによっては高難易度のステージが行く手を阻むが、バランス調整の方針は一貫していて、最終的には全部のステージが堅実に攻略可能に作られている。
そこに地対空戦車「ランドマスター」など、新たな機体追加に伴って強化されたステージのバリエーション、個性が際立ったキャラクターたちとベタながらも熱いストーリー展開がゲーム全体を彩り豊かなものにする。
改めて振り返ると、本当に『スターフォックス64』はゲームの根幹から副次的な部分まで高いレベルで完成された名作だったことが分かる。まさにすべてのピースが効果的に活用され、隙なく仕上げられた文字通りの「マスターピース」だ。
もちろん、一部「オールレンジモード」専用ステージの難易度の高さ、途中セーブができず、ゲームオーバーになれば最初のステージからやり直しになるなど、褒められない部分も存在した。また、ストーリーとキャラクターの一新で、初代『スターフォックス』特有の”無機質なカッコよさ”も薄れている。この点は初代に愛着のある人ほど賛否が分かれる部分だろう。実のところ、筆者も初代のその雰囲気にほれ込んだ人間なので、『スターフォックス64』での作風一新は、受け入れるまでそれなりの時間を要した。
ただ、そうした部分があったにせよ、『スターフォックス64』が名作と誇れる出来だったのはたしかだ。
初代『スターフォックス』が本格的な3Dシューティングというインパクトを重視した作品なら、『スターフォックス64』は3Dシューティングの面白さ、世界観の魅力を広めた立役者といったところだろう。
現に『スターフォックス64』を機に、シリーズファンの層も厚くなり、それがフォックスを始めとするキャラクターたちの人気と支持に裏付けられている印象だ。このおかげで、シリーズとしてのさらなる発展が期待されるようになったのもたしかだろう。
しかし、結果的に『スターフォックス』はシリーズとして、いまなお満足に発展できずにいる。
作品人気も『スターフォックス64』が不動の地位に留まり、その次に(もしくは肩を並べる名作として)初代『スターフォックス』が存在感を持ってしまっている状況だ。