ポケモンに“新鮮さ”を取り戻した『ポケモンレジェンズ アルセウス』 “異世界転移もの”だからこそ描けた、シリーズの原初的な魅力

ポケモンの新たな側面を発見させてくれた『Pokémon LEGENDS アルセウス』

 改めて言おう。『Pokémon LEGENDS アルセウス』は、再びポケモンの捕獲に重きをおいた原点回帰的なタイトルだ。しかし、上述した通り、プレイヤーにとってポケモンはもはや未知の存在ではない。だからこそ、ヒスイ地方という未開の地への、知識を持った状態での異世界転移という設定が活きる。

 そこに、これまでになかった広大なマップを舞台にしたアクションというゲームというシステムが合わさることで、プレイヤーがこれまで見たことがなかった、ポケモンの新たな側面を表現することに成功している。プレイヤーはポケモンのそうした面を発見し、自分の持っているポケモンに対する知識やイメージとのギャップに驚いたり、その通りだったことに安心したりしながら、ポケモンの捕獲を楽しむことができる。

 フィールドで出会うポケモンは、ただ草むらから飛び出してくるのではなく、種類によって逃げたり、好戦的だったりする。コイキングのような弱いポケモンは簡単に捕まえることができたり、体力が少ないと野生のラッキーが心配してくれたりと、我々が抱いているイメージ通りのポケモンも存在するが、イメージに反したポケモンもいる。

 たとえば、パラスはこれまでのポケモンをプレイしている限りでは、(パラスファンには申し訳ないが)洞窟に潜む地味な存在である。それが本作では、プレイヤーを見つけるやいなや襲い掛かってくる、凶暴なポケモンであることが分かる。ほかにも、「はかいこうせん」を放つコロトックや、空飛ぶギャラドスなどがプレイヤーを驚かせる。こうしたイメージとのギャップはとても新鮮で、多くの『ポケモン』ファンに刺さったはずだ。

過去を描くことによって成功した、ポケモンと人間の関係についての表現

 また、ポケモン図鑑にも大きな意義が生まれた。これまでの図鑑は捕獲したポケモンを解説してくれるだけの存在であったが、本作ではこれまでと違い、同じポケモンを複数体捕まえたり、特定の行動を観察したりしなければ、図鑑に説明文が記載されない。もしそのポケモンについて知りたければ、何匹もそのポケモンを捕獲・観察する必要があるのだ。現実世界の科学や昆虫採集がそうだったように、大量に集めて分類し、その生態について理解し、人類にとって身近な存在にしていく過程が改めて描かれているというわけだ。

 ほかにも、「ひでんマシン」が存在せず、ポケモンの力を借りてマップを走破していく点や、ポケモンを人間が理解して、自然と共生へと向かっていくサブクエストなど、本作では過去を舞台にしているからこその表現が多々あり、ポケモンが人間のパートナーであることを再提示している。

 このように本作では、様々な方向から過去を描くことによってポケモンと人間の関係を、いままでにない形で表現することに成功したといえるだろう。

『Pokémon LEGENDS アルセウス』は、ポケモンという生き物を「再発見」する作品

 たしかに本作は、ポケモンの捕獲に焦点を当てた「原点回帰」的な作品と、アクションRPGとして登場した「革新的な」作品の側面を併せ持つ。しかし、それ以上に本作は、これまで積み重ねてきたポケモンという生き物を「再発見」する作品なのだ。プレイヤーは本作を通じて、これまで自分がプレイしてきた『ポケモン』シリーズと、そこで出会ったポケモンとの触れ合いを思い出し、イメージとの一致やギャップを楽しむことができる。その意味で本作は、全ての『ポケモン』ファン向けに作られた、ポケモンという「生き物」への愛に溢れた作品であると言えるだろう。

 もちろん、本作には欠点もある。アクション要素は物足りないし、完全なオープンワールドで遊んでみたいという気持ちもある。ポケモンを描く作品としては、フィールド上でポケモン同士が関わる様子が見られないなどといった不満もある。なにより、これまで『ポケモン』シリーズを一切プレイしていない人でも楽しめるが、それでも刺さり辛いタイトルではあるだろう。だが、それでも本作は『ポケモン』シリーズを次のステップに押し上げたタイトルであることは間違いない。

 こうして考えてみると、本作はポケモンと自分の関係性を振り返り、来るべき次の時代へと期待を膨らませるきっかけとなる作品だからこそ、多くの人に受け入れられたのではないだろうか。実際、筆者は次はどのような形で、ポケモンとの繋がりをもつことができるのだろうかと、すでに「わくわく」しているのだ。

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