連載:声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”(第一回)
PodcastやClubhouseの躍進は「聴覚デバイス」でさらに加速する オトナル・八木太亮に訊く“音声コンテンツ"の可能性
Clubhouseの隆盛で可処分時間の奪い合いが激化 視覚コンテンツ優位の日本でリスナーを増やせるか
ーー音声メディアでいうと、Clubhouseなど音声SNS市場が盛り上がっていますが、まだマネタイズの方法がないですよね。このあたりはどう思われますか?
八木:Clubhouseは、3つマネタイズ方法を実装予定のようです。サブスクと、チケットと、投げ銭ですね。彼らは「広告をやらない」と代表が宣言しており、おそらくこのマネタイズ方法に絞られていくでしょう。
音声メディアのマネタイズ方法は「リスナーからお金を払ってもらう」か「広告」かの2つに分けることができます。Clubhouseは前者だとしても、TwitterやFacebookのようなプラットフォーマーは広告の専門家でもあるので、後者を選ぶような気がしています。これは僕の予想ですが、その2つはオンデマンド(アーカイブ)形式にも対応するのではと考えています。Clubhouseが盛り上がる中で、「ライブじゃない方がいいのに」という感じることもあるかと思いますし、オンデマンドにすることで、広告マネタイズの可能性がでてくるのためです。
ーー大きいプラットフォームをもっているか、広告の知見があるかなども関わってきそうですね。
八木:Clubhouseのような音声SNSは5分時間ができたら開きたくなるアプリであることが新鮮だと思っていて。細切れにされた可処分時間にすら入り込んでくることで音声コンテンツを聴く癖がつくので、市場全体の成長に大きく影響していると思います。
ーーPodcastもradikoも、まとまった時間ができたときに聴くイメージですが、Clubhouseは細かい時間を取りにいっているという視点は新鮮です。
八木:結局は可処分時間の奪い合いですからね。動画にゲーム、漫画など、視覚系のメディアは既に激しい競争が起こっています。そことは一線を画す音声コンテンツはチャンスがあると言われてたのですが、Clubhouseの参入で一気に可処分時間の奪い合いが激化しましたね。
ーー2021年は、Clubhouseの参入によってガラッと音声市場が変わりそうですね。国内サービスの動向はどのように見ていますか?
八木:ライブプラットフォームとオンデマンドの戦いがあるとして、オンデマンドに絞って考えると、国内プラットフォーム対Podcastの構図もあります。ここを制するのは、結局コンテンツ次第になってくると思います。
ーー2021年以降、テクノロジーによって音声メディアはどう変わっていくと思いますか?
八木:オンデマンドの音声メディアのひとつであるPodcastにフォーカスしてお話すると、Spotifyがガラッとゲームチェンジをしてきそうです。Spotifyはプラットフォームを持っていますし、 ホスティングサービスの『Megaphone(メガフォン)』や『Anchor(アンカー)』を買収していて、そこを全部繋げると、YouTubeと同じく1つのプラットフォームで出稿まで完結するシステムを作ることができるんです。今まではホスティングサービスと配信先のサービスが分断していることで、分析データが取りきれないという弱点があったのですが、これを一気通貫してしまえばこの課題は解決されます。現に2021年2月のイベントでPodcastクリエイターへの広告収益還元や、クリエイター自身がリスナーに月額有料コンテンツを提供しサブスクリプションマネタイズを実現できる仕組みを提供することことを発表しています。
あとは、その他競合の動きですが、Appleに関しても年内中にサブスクリプションの仕組みを実装しようとしてるという情報があります。
また、2020年の9月にポッドキャスト参入したAmazonが今度はホスティングサービスを買収するんじゃないかと予想しています。コンテンツを買って、プラットフォームも買って、あとAmazonに足りていないのがホスティングなんです。Amazonがそこに踏み込むと、また大きく流れは変わってくるでしょう。
ーーそんな市場の変化にあわせて、オトナルさんは今後どのように動こうと考えていますか?
八木:オトナルのミッションは、国内の音声市場を拡大することです。僕らはマネタイズアプローチ優先で、まずは広告から。広告枠を作り、流通を生める提案を通じて買う人を増やすのが僕らの仕事なので、全方位的に国内のメディアのマネタイズを支援します。メディアと広告、両方の補強のためにデータを活用していきたいです。
ーー両方やっていらっしゃるのが強みですね。
八木:僕らはメディアサイドとも、広告出稿サイドとも協力関係を結んでいます。現在月に100社以上の企業さんを新規でやりとりしてるので、ニーズも把握できますし、一気通貫にできるのが僕らの特徴です。
ーーいろんな会社さんの動向もわかりますし、コンサルティング的な攻め方もできますね。
八木:競合も出てくると思いますが、僕らはどちらもやっていることもあり、結果的に市場全体が大きくなればいいんです。ただ自分たちが儲かればいいという気持ちではやっていなくて、市場全体で買い手や売り手、プレイヤーを増やすために全方位的な事業展開をしています。
結局マネタイズできないとひたすら苦しいんです。メディアが潤わないといいものは作れないですし、そもそも継続できませんから。
ーーシンプルに言えば、広告が潤うほどコンテンツにお金と時間を割けるようになる、という。
八木:たとえば、Podcastは15年くらいそれで苦しんだので、ここにきてリスナーもマネタイズ事例も増え、さらなる可能性が生まれてきたのは良いことだと思います。広告だけが増えてもリスナーがいないと意味がないので、日本に関しては全体のリスナーを増やすことが直近の課題だと考えています。
ーーきっかけがあれば増えそう、というくらい環境は整いつつあると思います。耳の空いている人は多いような気がするので。
八木:僕は、そこが弱点でもある気がしていて。日本人って視覚情報が好きじゃないですか。英語って口語前提ですけど、日本語は歌とか詩、近代だと漫画やアニメのように文字や画など視覚に頼った文化が強い国民性なので、目に訴えるコンテンツが強いように感じています。エビデンスはないんですが、個人的には「ビジュアルで会話する社会」だと思っていて。
ーーそれでも音声事業をやっているのがおもしろいですね。可能性を感じてらっしゃるんですよね。
八木:日本の音声市場がこんなに遅れているのが悔しさもあって、そこをこじ開けたい気持ちでやっているんです。デジタルの広告市場があと少し強化されれば、ラジオ局をはじめとした音声パブリッシャーのデジタル分野における可能性をさらに広げられるので、市場全体の拡大を最優先事項として頑張っていきます。