『大神』はなぜ人々の記憶に残るのか? PS2時代の傑作を解剖する

ストーリーをここぞという場面で盛り上げるBGM

 ゲームが人の記憶に残るためにBGMの効果は絶大だ。『大神』はBGMの力の入れ具合いも尋常ではない。なんと、そのサウンドトラックは驚異のCD5枚組で、収録曲数は218曲にも上る。サウンドトラックではその一曲一曲に対する作曲者のコメントも見ることができるため、本作をプレイして気に入った人はぜひ購入してみてほしい。

 本作のBGMは和の雰囲気を感じさせながらも、和の音階ばかりにこだわって編曲されているわけではないのも面白いポイントだ。自由な発想と幅広い切り口で作曲された数々のBGMは、本作の持つ”癒し”の世界観を体現するものから、戦闘中の緊張感を演出するものまでバラエティ豊富。中でも本作で最も人気が高いであろう楽曲「太陽は昇る」は、多数の和楽器を駆使したアンサンブルとキャッチーなメロディが融合した至高の名曲といえる。

 また、筆者の中で特に印象に残っているのは、「待ち構える大妖怪」という楽曲だ。こちらは琵琶一本で構成された渋い楽曲で、緊張感のある旋律が緩急を付けて演奏されている。本作に穏やかな長調の楽曲が多いのも相まって、プレイ時に聞く「待ち構える第妖怪」はかなり異質に感じるかもしれない。しかし、そんな楽曲が「もうすぐボス戦が始まる」という場面でのみ流れるのだから、たまらない。これから現れる敵の強大さに不安を覚えながら(あるいは期待しながら)進むプレイヤーの心を、この上なく昂らせる最高の楽曲と演出だ。このような音楽的演出に優れているという点も、『大神』が長らくユーザーに愛される所以だろう。

 今回は名作『大神』の魅力について、「キャラクター」「幸玉システム」「BGM」の3つの観点から解説した。もちろん、本作の魅力はそれだけではない。筆で模様を描いてさまざまな奇跡を起こす「筆しらべ」、癒しの要素から心を震わせる熱い展開まで振れ幅の大きいストーリー、水墨画や浮世絵を想起させる唯一無二のグラフィックなど本作の魅力は列挙に暇がない。しかし、これらの魅力については、実際にプレイして確かめてほしい。本作は難易度も低めに設定されており、アクションが苦手な人でも十分クリアできるはずだ。

 本作を今からプレイするのであれば、 Play Station 3、Play Station 4、X box One、Nintendo Switch、PC向けの「絶景版」がおすすめだ。こちらは先述した通りHDリマスター版となっており、原作よりもさらに美しくなったグラフィックを堪能することができる。未プレイの方はもちろん、原作を既に遊んだことがあるという人も、もう一度アマテラスと共にナカツクニを駆け抜けてみてはいかがだろうか。

■坂田憲亮
愛知県の田舎で自由気ままに暮らすフリーライター。アプリやゲームなどエンタメ分野をはじめ、国内大手の各種メディアにて記事を執筆中。取材から撮影、Webデザインまで行う自称・マルチクリエイター。

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