宮迫博之×中田敦彦『WinWinWiiin』の仕掛け人・Guild高橋将一が語る、YouTubeでリッチコンテンツを展開する“意味”

タイアップでも人の心を揺さぶるエンターテインメントを

――「ストーリー」が今回のキーワードですが、高橋さんはもともと、コンテンツを発信する上でストーリーやドラマを作っていく、という発想になぜ至ったのでしょうか。

高橋:僕もYouTube業界に入ってまだ3年くらいなのですが、一番衝撃を受けたのが、DJ集団・レペゼン地球の「【好きなことで、生きていく】『レペゼン地球-DJ社長-』」という40分くらいの動画で。かなり過激なことをするので、チャンネルがBANになったこともあり、いま見られるのは再アップされた動画ですが、合わせて3000万回くらいは視聴されています。DJ社長がそこでまさに、それまでのストーリーと夢を熱く語っており、この動画をきっかけにチャンネル登録者数も、ファンも激増していきました。いまではドームも埋めるほどの人気ですが、レペゼン地球の動画や楽曲自体にその力があるかというと、正直言って、怪しいと思うんです。おそらく、ファンは最初にDJ社長やレペゼン地球というグループを好きになり、だから楽曲も動画も好きになった。つまり、ファンがついていく動機がコンテンツ軸ではなく、人軸だったんです。

――レペゼン地球は確かに、明確な目標を掲げて、ストーリーを作っていったグループですね。

高橋:そこでDJ社長とお会いすると――本人のキャラクター的にどこまで言っていいかわかりませんが、本当に飛び抜けて頭がいい。そこでいろいろと話を聞いたことが、いまにつながっていると思います。YouTube業界で、僕にとって戦略面の師匠がDJ社長で、コンテンツ作りの師匠がヒカルさん、という感じですね。ヒカルさんは数字を取る、ストライカーとしての嗅覚がめちゃくちゃ鋭くて、逆に言うと、どうすれば視聴者がよろこぶか、ということへの向き合い方が異常なんです。だからこそ、大炎上から復活することができた。0を100にするのではなく、マイナス100を100にしたのは本当に凄いことで、その努力を間近で見るという経験がなかったら、僕もYouTubeのプロデュースはできなかったと思います。彼は誰よりもモチベーションが高く、マネジメントの必要がない。常に「俺が天下を取るのに協力してください」というスタンスで、何があってもめげないので、人間だと思えないというか、マンガの主人公のようです。DJ社長とヒカルさんの違いは、DJ社長の方が長期的に物事を見ていて、ヒカルさんの方が1週間後の未来を変えるくらいの密度で考えている、ということですね。


――もう一人、Guildの創業にも参画している、ひろゆきこと西村博之さんも、師匠といえる存在だそうですね。

高橋:そうですね。ひろゆきさんからは、交渉力を学んだと思っています。真似しづらい頭の良さがある人なのですが、特に凄いのは展開を読む能力。交渉はテーマ設定、ルール作りが重要で、あとはスピードだと思うのですが、それが圧倒的です。僕はその3人ほど突き抜けていないと思いますし、スペシャリストではなくジェネラリストとして、複数の知識を応用しながら戦っている感覚です。

 ただ、YouTubeのプロデューサーとして、オールジャンル80点では、例えば石橋貴明さんのタレント特性を100%理解してコンテンツを作っているマッコイ斎藤さんには敵わないですね。江頭2:50さんを支える藤野義明さんもそうで、特定のタレントのプロデュースをしたら絶対に勝てない。そういうチャンネルがあるのも、YouTubeの面白いところだと思います。

――このコロナ禍もあり、テレビや舞台への出演が限られると、経営上もYouTubeに出て行かざるを得ない、という面もありますね。

高橋:そうですね。またビジネスモデルとして、プロダクションやレーベルがいま欲しているのは、やはり新しい宣伝媒体だと思います。インターネットが普及したことでメディアが分散していて、米津玄師さんが好例ですが、話題になるアーティストもほとんどインターネット出身という状況。メディアのあり方が変わったことで崩壊している業態やジャンルは多いと思うので、若い人たちが集まるYouTubeを活用してそれが改善されるのであれば、そこにかかわりたい、と考えるのが自然なのではと。

――マスメディアでの露出だけを狙っていたらスケールしないというなかで、新しいメディアとしてYouTubeに注目が集まっています。Guildは企業とクリエイターをつなぐ代理店としての機能も果たしながら、コンテンツの面でも多くのYouTubeチャンネルをサポートしていますね。

高橋:現在、Guildの年商は100億円規模となりました。なぜ成長をすることができたのかというと、YouTubeで成功している芸能人の方は限られていると思いますが、YouTubeの特性を知っていて、チャンネルを成功に導くノウハウを持っている人が、世の中に非常に少ないからだと思っています。YouTubeにおいてはYouTuber自身がプロデューサーであり、他者のチャンネルをプロデュースした経験のある人というのが、ほとんどいない。僕の場合は、たまたまヒカルさんのマネージャーとして炎上も経験していて、宮迫さんや手越くんのチャンネルについても密接にかかわっていますし、現状で400チャンネルくらいのサポートをしているので、自然とノウハウが蓄積されていて。クリエイティブな部分も含めて、どうすればチャンネルがうまくいくか、という精査ができる企業は、なかなか生まれづらいと思います。

 例えばタイアップの動画ひとつ取っても、どうやって商品を紹介すれば視聴者が面白く感じ、再生回数が回って、結果として売り上げにつながるか。ストレートに商品を宣伝するだけの動画がいまも多いのですが、それではインターネット広告と変わらない。どうストーリーをつけて、どう面白いコンテンツにしていくか、という部分はクリエイティブの領域になるので、Guildはそこにアドバンテージがあります。


――具体的な例を挙げるとすると?

高橋:例えば、シューズを中心としたオンライン通販の「ロコンド」さんとのタイアップ企画で、ヒカルさんと宮迫さんが直談判し、売り上げ目標を達成できたらテレビCMに出演できる、というストーリーつきのエンターテインメントな動画を作りました。結果として、1週間で6億円という株式市場に影響するほどの売り上げを記録しましたが、これもただ「いい靴を売っている」ということを宣伝するだけでは、ここまでの結果にはつながらなかったでしょう。

 また、例えば500万円という予算をもらえるなら、そのなかでうまくやりくりして、うちの利益を最大化することより、400万円で話題の女優さんをキャスティングしてバズる動画にしよう、と考えたほうがいいと思っています。一般的なプロダクションだと当然、そんなことをしていたら利益が上がらないし、手離れも悪くなってしまって効率的ではない。その点、うちはクリエイターと一緒にコンテンツを作る感覚で、タイアップでも人の心を揺さぶるエンターテインメントを作ることができる。それが僕たちの最大のアドバンテージだと思っています。

■赤石晋一郎
あかいし・しんいちろう。南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。日韓関係、人物ルポ、政治・事件、スポーツなど幅広い分野の記事執筆を行う。近著『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)。
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