神保哲生に聞く「放送制度改革」の本質:放送自由化の必要性と、解決すべき日本固有の問題

神保哲生が語る「放送制度改革」の本質

「インターネット放送局」は成り立つか

ーー神保さんのビデオニュース・ドットコムはその先駆けだったと思いますが、近年でインターネット放送局にも存在感が出てきています。

神保:グーテンベルクの活版印刷以降、コンテンツの制作効率はあっという間に何千倍、何万倍という進化を遂げましたが、一方で、最後は紙で配らなければいけなかったり、電波という制約性の高いもので届けなければならなかったり、つまり伝送路の方には強い制約が残り続けていて、それがメディアのボトルネックになっていました。しかし、インターネットによって伝送路が一気に開放され、事実上誰でも発信できる、夢のようなメディア環境が現出した。インターネットは少し前までは「そうは言ってもパソコンでしか見られないじゃないか」などと言われていましたが、今ではビデオニュースもスマートフォンからの視聴の方が多くなっています。インターネットによってメディアは誰でも自由に参入できるようになりました。一方で、旧メディアは逆に、伝送路の独占が前提のビジネスモデルだから、軒並み苦境に陥っているし、その傾向はますます進んでいくでしょう。

 ただ、真に自由競争の市場の中で報道事業が本当にビジネスとして成り立つかどうかについては、まだ人類はそれを証明できていません。これまで新聞やテレビなどの既存のメディアが曲がりなりにも公共的な報道をできたのは、もしかするとそれが参入障壁の高い特権的な産業だったからに過ぎなかったのかもしれません。

 ビデオニュース・ドットコムは真に自由な市場で公共的な報道が事業として成り立つかどうかにチャレンジするために、私が2000年に起ち上げた放送局です。起ち上げから10年くらいかけて最低限のオペレーションを維持する限りは単年度黒字を実現しましたが、番組の完成度という点でも取材力という点でも、まだまだ目標とはほど遠いところにいます。

 現在、有料の会員が1万5000人くらいいますが、これが報道事業として成り立つかどうかは5万人、10万人と会員を増やしていかなければダメだと思います。そのためには番組をより充実させると同時に、とにかく取材力をつけるしかありません。更に、報道機関として既存のメディアに取って代われる存在になるためにと考えると、まだまだ先は長いと感じています。

ーーインターネット放送局によるジャーナリズムは、成り立っていくでしょうか。

神保:ビデオニュースを18年やってきて痛切に感じるのは、公共性と収益性を両立させることの困難さです。両者は完全にバッティングするとまでは言いませんが、ほとんど重ならない。例えば、「このニュースは儲からない割には取材に金がかかる。社会的には大事な問題かもしれないが、扱うのはやめておこう」という判断は、報道機関の経営者としては全く公共的なものではありません。しかし、その一方で経営者が「儲からないけれど、大事な問題だから扱おう」という判断を下し続ければ、会社経営は破綻してしまいます。

 かつて既存の新聞者やテレビ局は、他に類を見ない参入障壁や数々の特権的制度に守られているおかげで経営的にはかなりの余裕があり、だからこそ公共的な価値にコミットすることができました。しかし、今や若者は新聞を読まなくなり、テレビもネットに広告を取られて、既存のメディアはどこも余裕がなくなっています。その中で、どうやって公共的なジャーナリズムを維持していくのかは、メディア業界だけでなく、われわれ市民社会全体が真剣に考えていかなければならない問題です。

 ビデオニュースは、インターネット放送局というものが成り立つかどうか、しかも、最もオーソドックスな形で、正面突破のモデルでやってみる、というチャレンジではあります。つまり、大きな資本を入れず、ペイする範囲でできることをやっていく、というモデルであり、少しずつスタッフを育てて、内容を充実させてーーというように、非常に時間がかかりますが、少ないものの利益を上げることはできています。放送が自由産業になったなかで、歴史上常に特権のなかにあった「公共的なジャーナリズム」が生き残れるかどうかーーというのは、歴史上どの国でも証明されていないことですが、人類の新たな課題と捉えて、100年先を見てトライしていこうと考えています。

(取材=編集部/写真=三橋優美子)

◾️VIDEO NEWS - ニュース専門ネット局 ビデオニュース・ドットコム
 独立した公共的な報道を行う目的で開局した、日本初のニュース専門のインターネット放送局。広告に依存しないビジネスモデルを構築するため、開局当初より、有料会員制を採用している。放送中の全番組を視聴するためには、1ヶ月500円+消費税の会員登録が必要。(一部無料番組あり)
http://www.videonews.com/

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