全米プロサッカーチームがプロゲーマーと「eスポーツ選手契約」 リアルとゲームはどう結びつくか
eスポーツの勢いは止まらない。人気大会は世界中のゲーマーたちの注目を集め、大手企業のスポンサーによる億単位の賞金を巡って競い合っている。トップクラスのゲーマーたちにはスポンサーが付き、彼らそれぞれが持つYouTubeやソーシャルメディア上のチャンネルは何万人ものフォロワーが存在している。マーケット調査企業のNewzooによると、2020年までには15億ドルほどのビジネス規模に達すると予測されている。
MLSチーム、eスポーツ選手と契約
eスポーツの人気ゲームの一つに数えられるのがElectronic Artsによるサッカーゲーム『FIFA’ 18』だ。このゲームの世界トップクラスのゲーマーであるMichael LaBelleがNYレッド・ブルズと”選手契約”をしたとして話題になった。なぜ話題になるかというと、レッド・ブルズは実際のプロ・サッカーチームなのだ。
野球のMLB、バスケットのNBA、フットボールのNFLと比べると知名度は低いが、アメリカにはプロサッカー・リーグMLSが存在する。そのMLSに所属するニューヨークを拠点とするプロチームが初めてeスポーツ選手と契約したというわけだ。もちろん、実際のスタジアムでプレイするアスリートとしてではない。あくまでもFIFA’ 18のプロ・ゲーマーとしての契約だ。
スポーツとチームを盛り上げる役目
NYレッド・ブルズがMichaelと契約した目的は明らかだ。チームとMLSを盛り上げるためのイベントや広報にeスポーツを活用していくためだ。28才のMichaelはYouTube上で28万5000人のフォロワーを持つ人気ゲーマーである。人気ゲームFIFA 18’のテクニックを磨くために世界中のプレイヤーが彼のチュートリアル動画を視聴している。こちらは彼の「FIFA 18 フォーメーショントップ5」という動画だ。
こちらはMLSによるeスポーツ大会eMLSについてのアナウンスをしている動画となっている。
この動画で彼は「eスポーツへの愛情で関わってきた」「eスポーツが大きくなる助けをしたいと思っていた」と繰り返し語っている。大きな可能性を見せているeスポーツの最先端にいる彼らプロゲーマーたちの「もっと大きくeスポーツを成長させたい」という願いとMLSチームの「もっとメジャーリーグ・サッカーの知名度を上げたい」というニーズがマッチした形だ。
サッカー・ゲームの特殊性
実際のサッカー・リーグを盛り上げるためにサッカー・ゲームのファンがどう役に立つのか、疑問に思う人もいるかもしれない。しかしサッカー・ゲームのファンたちはサッカー自体とも近いことがわかっているのだ。
2017年のシモンズ・リサーチ社による調査によると、北米の一般スポーツファンと比べて、MLSファンはなんと二倍もゲーマーである傾向が高いとなっている。MLS自身が2014年に行ったリサーチでは、熱心なMLSファンのなんと三分の二が、「興味を持ったきっかけはElectrocnic ArtsによるFIFAシリーズ」と回答している。ゲームがスポーツファンを文字通り生み出していることが明確に判明しているというわけだ。
上記ビデオでMichaelが発表しているeMLS大会はこの4月に初めて開催されたが、Electronic ArtsによるFIFAシリーズとMLSの強い結びつきは数年前から始まっている。それも上のデータを考えるとMLSにとっては賢い戦略であることが分かる。
アメリカにおけるメジャーリーグ・サッカーの歴史はまだ25年以下と浅い。バスケットや野球といったスポーツ・リーグと比べるとマイナーなスポーツとなっているが、その人気は徐々に高まってきているようだ。リサーチ企業Gallup Pollが今年初めに発表したデータによると、1000人のアメリカ成人を対象とした調査でサッカーが好きなスポーツだと答えたのは7%だった。野球の9%に追いつく勢いだ。7%はこれまでのリサーチでも最も高い数値となっている。サッカーの人気が上昇していることが分かる。
eスポーツは今後、リアルとどんどん結びつく
MLSの例で分かるのは、eスポーツと言ってもジャンルやゲーム内容によってはゲーム以外のビジネスやイベントとユニークなコラボレーションができるということだ。ポケモンGOが爆発的な人気を集めて、地方自治体や様々な店舗がマーケティングやイベントに活用したように、ゲームは今後ますますリアル世界におけるコラボレーションを増やしていくだろう。
MLSがFIFAシリーズとの親和性を見出し、大きく投資を行っていることは今後のeスポーツの発展の方向性を示唆しているように思われる。次に我々を感心させてくれる、eスポーツのクリエイティブな活用方法が楽しみだ。
■塚本 紺
ニューヨーク在住、翻訳家・ジャーナリスト。テック、政治、エンタメの分野にまたがる社会現象を中心に執筆。参加媒体にはDigiday、ギズモード、Fuze、GetNavi Webなどがある。Twitter:@Tsukamoto_Kon