ここは社会に疲れた人が集う自然公園 ─ 美しきアドベンチャーゲーム『Firewatch』レビュー
描かれるのは、あくまで現実
しかし、ワイオミング州の自然保護区では不可解なことが起こる。不審な人影が現れるだけならまだしも、デリラ以外の人物の咳が無線から聞こえたり、あるいは山の奥に謎のフェンスがあったり……。ただの退屈な、しかし疲れた人にとって魅力的な自然に囲まれた生活はミステリのような雰囲気をも帯びてくるのである。
もっとも、これはあくまで現実だ。トラックに轢かれて異世界に行きたい若者ならともかく、現実を生きて人生に疲れた男がとんでもない超常的な大事件に巻き込まれるだなんてこと、むしろ願い下げだろう? ただでさえ外の生活が嫌で自然保護区に逃げ出すかのようにやってきたというのに、そんな不可解なことがあってたまるかという話だ。そして実際のところ『Firewatch』の中にある物語はミステリなどではなく、むしろ人間が生きていくうちに起こる悲しみを淡々と描いただけのものなのだ。
木漏れ日が輝いて見える林、嫌なことをすべて忘れさせてくれそうな夕日、青い空を静かに流れる雲……。どれも美しい景色だが、そもそもなぜそれが美しく思えるのか? その一因はやはり、ヘンリーが疲れているからだろう。
そう、ここは社会に疲れた人々が集う自然公園。景色を眺めることで心が癒されると同時に、逃げ出した人がいつまでもここにいてはならないことを知らしめてくれる一作なのである。あなたがもし疲れたのならば、止まり木で休むように本作を訪れると良いだろう。
■渡邉卓也
「マリオの乳で育った男」と自称しているゲームライター。サラリーマン時代、定時で帰ってゲームをしようとしたら「そんなに早く家に帰ってすることあんの?」と上司に嫌味を言われ「あ、そういえば自分は仕事などではなくゲームをするために生きているのだった」と思い直しゲームライターとなる。好きなキャラクターは「しずえ」と「カービィ」。
◆『Firewatch』詳細情報
・プレイできるハード:PlayStation 4、PC
・価格:1,980円(税込)
・公式サイト:https://www.jp.playstation.com/games/firewatch-ps4/
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