VRは現代の魔術だーーゴッドスコーピオンが見通す、人間の能力が拡張した近未来
AIという「魔」をリテラシーで解きほぐす
――オカルティズムについてですが、例えばAIの発展について理性の拡張というイメージもあり、外部の力を借りることによって人が明晰になっていきますね。そのときに、オカルト的なものが理性によって解析可能なものになっていく、と考えることもできます。
ゴスピ:そうですね。テクノロジーは道具で、常に欲望、目的を達成するためのものなので、道具は目的を描いたビジョンを叶えるために作るもの。つまりテクノロジーってまだわれわれの内側に、外部性=オカルティズムをどんどん取り入れていくんですよ。人類史って、テクノロジーという道具の発明の連続ですよね。猿が棒を持ったのもテクノロジーで、それがVR、MRで超能力的な状態を身体に取り込むことができるようになった。できてしまえば案外普通に使い始めるけれど、そういう意味ではGoogleだって、もともと昔の人から見ればオカルティズムなものなはずなんですよ。でもわれわれはそれを使いこなす。ずっとその繰り返しというか。
昔の人が魔を切るみたいな感じで、現代の「魔」として外側にあるものが、AIだったりして。テクノロジーに対するリテラシーのあり方とか、文化の中でどうあるのかそれをどう批評すべきなのかということは、メディアアーティストが形にして世に提示していますよね。
――AIを怖がる人たちは、人間性を阻害するんじゃないか、というイメージを持っていると思います。その点についてはどうですか?
ゴスピ:AIって情報処理システムだから10年前からみんな普通に使ってますよ。Amazonの「ウィッシュリスト」のサジェストって、あれAIがやってますよね。ただバズワードになっているから「いまAIが来ている!」と思うのではなくて、ちゃんと調べてリテラシーを上げましょうよ、という話で。
――なるほど。作品についてですが、ゴスピさんが現在、こんな作品を生み出したいと注力しているのはどんなことですか?
ゴスピ:西洋魔術研究家のバンギ・アブドゥルさんと、『NOWHERE TEMPLE Beta』というVR儀式作品を作ったんですけど、これは死後の世界をアクチュアリティ化する、というもので。つまり視覚と言語誘導とVRで没入環境を作ったんですが、これをMR音楽で考えると、革命が起きると思うんですよ。過去に『Spatial Jockey』というものを作ってリアルタイムにDJの曲をVR空間でVJするものを作ったんですが。MRだと、曲を聴きながらリアルタイムに現実世界が呼応する状況が作れるミュージックビデオって、ヤバくないですか?新しい音楽体験のあり方として、目の前にアーティスト本人が現れて、自分の部屋のなかで動く、みたいなことはすでにできるわけで、これも面白いですよね。リアルタイムでインタラクティブに、音楽に合わせて壁のスケールが変わったり、音が現実を変質させる。空間のハイパーテキスト化ですよね。あと今日話した内容のように環境と経験に呼応するOSを作りたいです。
現代魔術師、シャーマンとして生きたい
――ご自身の仕事の仕方についても聞かせてください。
ゴスピ:会社での立ち位置がメディアアーティストとしてコンセプトを立てプロトタイピングをする事で。最近だと『chloma x STYLY HMD collection』のHololensアプリを作ったんですがこれはブランドの世界観の中でMRショッピングができる世界で初めてのものになるのかと思います。3月初旬にWindowsストアからリリースできるかと。世界中のどこででもHololesnsを通して目の前にブランド空間を立ち上げてショッピングできるアプリケーションです。我々が想像するバーチャルショッピングを実現する実用的な世界初のアプリになるかなと。あと基本的に社会性があまりないのでやりたくないことが本当にできないんですよ。だからやることはどれも自分がやりたいことであって、新しい認知、知覚体験を作れるものであることが前提でやってますね。
――具体的なエンタメ作品を作るのが得意な人もいますが、ゴスピさんはどちらかと言うと、新しいコンセプトを作っていくタイプですよね。
ゴスピ:そうですね。コンセプトやヴィジョンはあるけれど、それが現在できないから実現できるように動いて、という繰り返しで、デベロッパーっぽい作家性で。企業体としても、作家としても想像するけど現在ないものを誰でも実現、実用できるようにしていくのが目標ですね。
――そういう意味では、ゴスピさんの発想は人文的かもしれないですね。机の上にヘーゲルの『精神の現象学』がありますが、いまここに興味を持った理由は?
ゴスピ:いまは認知とは、観るとは何か、というものを掘っていく時代だと思っていて、それを人文的な話として捉える一方、テクニカルな形で実現していくというアプローチが正しいんじゃないかと。自分が気になったり見て感じる世界、環境を色んな分野を横断してサンプリングして行って自分の中で物語化して体系化しそのなかで、できることを模索していくそれを形にしてみんなが見れる、体験できる形としてアウトプットする。現代魔術師、シャーマンとして生きたいんですよね。何かを作るときは演出家で師匠の篠田千明からの影響が強いです。
――18~19世紀に書かれたものでもまだ使える、という感じですか。
ゴスピ:哲学はずっと使えますよね。いつ使える!ってなるかは10年先か100年先か1000年先かは分からないけど哲学って時間軸のスケールが違いますよね。
――今回お話に出た、MRを使った超能力的な日常は、どれくらいで訪れるでしょうか?
ゴスピ:最近のMRデバイスだと、2大巨頭はマイクロソフトのHoloLensと、Magic Leapですね。一般人にも使えるようになる第一歩が、2~3年以内に踏み出されると思います。誰でも装着するようになるとコミュニケーションのあり方も変わりますよね。今日のインタビューで話していることも、ビジュアライズされて目の前に出て来る、みたいなこともしたいなぁ。言葉にするとこぼれ落ちる事ってありますよね。
もしかしたら5年後には、こうやって目の前で話しているのに、実はみんな別の場所にいる、ということもあり得たりする。未来だと思ってる事の基礎技術自体は現在でもできていて、あとは組み合わせ方と時間、コスト、CPU、GPUの問題なので、今日お話しした魔術的な感覚、知覚が一般化するのも、そう遠くない話だと思います。VR/MRが一般で使われるようになった時に個々人の世界の認知のあり方、解像度を変えれるようなものを用意できるようにしたいですね。
(取材・文=神谷弘一/写真=下屋敷和文)