松岡茉優が『ダウンタイム』を上回る表現力を披露 『男ともだち』に成田凌と刻んだ名演

 作家・千早茜の作品が好きだ。『マリエ』や『さんかく』、『神様の暇つぶし』、そして直木賞を受賞した『しろがねの葉』。表紙の美しさに惹かれて手に取り、ページをめくるうちに物語の世界へと引き込まれている。千早作品に登場するのは、決して綺麗ごとでは片付かないさまざまな感情だ。誰かを愛する気持ちも、嫉妬も、執着も。ドロッとしているはずのものたちを、千早は美しい言葉で丁寧にすくいあげてくれる。

 そんな彼女の作品のなかで、とくに好きなのが『男ともだち』だ。「恋人が決してくれないものを、彼だけが私にくれた」。この言葉を聞いただけで、二人の関係が気になって仕方がなくなった。恋人がくれないものって、なんだろう。愛情? 安心感? それとも、もっと別のなにか? そもそも、そんなに大切なものをくれる相手なのに、どうして恋人同士にはならないのだろう。いや、異性というだけで、行き着く先が恋愛だと思ってしまうこと自体、私のなかに無意識な固定観念が宿っているのかもしれない。

11月6日(金)全国公開 映画『男ともだち』本予告

 ネタバレになるため詳細は控えるが、読み終えたあと、神名とハセオの関係について、しばらく考えずにはいられなかった。だからこそ、『男ともだち』の映画化が発表されたときは、胸が躍った。あの二人が、スクリーンのなかではどんな表情を見せているのか。なかでも、主人公・神名を演じるのが松岡茉優だと知ったとき、これは間違いないと思った。

 松岡茉優という役者には、不思議な“引力”がある。私が、彼女の演技を初めてじっくりと見たのは、2014年放送のドラマ『GTO』(カンテレ・フジテレビ系)で、学級副委員長のあゆなを演じていたとき。“優等生”と呼ばれていた彼女が、予期せぬ妊娠により大きな決断を迫られることになる。不安を抱えながらも、次第に母親としての自覚が芽生えていく。たった数話の間に、見違えるほど表情が変わった松岡に“役者魂”を感じたのを覚えている。

 小説を実写化した作品でいうと、2017年公開の映画『勝手にふるえてろ』も忘れられない。松岡が演じたのは、脳内で繰り広げる恋愛と、リアルな恋愛の狭間で揺れ動くヨシカ。自意識が強く、妄想癖があり、少々(というか、だいぶ)こじらせ気味。ともすれば、共感しづらい人物になってしまいそうだが、松岡が演じると不思議と愛おしく見えてくる。決して万人に愛されるキャラクターではないのに、なぜか目が離せない。これこそが、松岡茉優という役者が持つ“引力”なのだと思う。

 そんな松岡の演技力が改めて評価された作品が、Netflixシリーズ『ダウンタイム』だ。松岡が演じた主人公・沼田文は、天才的なオペ技術を持つ形成外科医。「医療で命を救う」という信条に従い、緊急オペを行った結果、勤務していた大学病院を去ることに。その後、カリスマ美容外科医・凛(仲里依紗)が院長を務める美容クリニックで働くことになるのだが……。やはり、美を追求する患者と、命を優先する文では価値観が大きく異なる。

 治療のために、手術で豊胸のシリコンを取り除いたせいで、インフルエンサーのかなぶん(景井ひな)に激昂されるシーンでは、「病院だから。病気の原因取り除いたんですよ」と最初は冷静に諭していたものの、「戻して死んじゃったらガルコレもクソもねぇだろってんの」と次第に怒りを爆発させる。声を荒げたり、大げさに感情をあらわにしているわけではないのに、命を軽んじられたことへの怒りがひしひしと伝わってきた。

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