吉田羊が明かす、人生の選択と“前向きな諦め” 「もしあのときあちら側を取っていたら」
吉田羊が主演を務めるドラマ10『会社員』(NHK総合)。本作は、現代のリアルな企業社会を舞台に、組織の論理と個人の信念の間で揺れ動く人々の姿を描き出す、骨太なオフィスサスペンスだ。吉田が演じるのは、野心を握りしめ、男性組織を駆け上がってきた50歳の会社員・英理子。本作で描かれる現代社会の歪みやハラスメントのリアル、そして自身の俳優人生における大きな“選択と諦め”に至るまで、たっぷりと語ってもらった。
保身と倫理で揺れる英理子の本質
ーー英理子は視聴者に嫌われかねない絶妙なパワハラ上司感があり、非常に印象的な役どころでした。英理子というキャラクターをどのように意識して演じられましたか?
吉田羊(以下、吉田):就職氷河期をサバイブしてきた世代の生き残りと考えると非常にキレものであることは間違いなく、その時代に顕著な男性優位の社会で、不当な扱いや、理不尽な思いをたくさんしてきたのだろうと想像しました。彼女は、会社利益や会社に尽くすことを人生のプライオリティとし、"会社のため"という大義名分を掲げながら清濁合わせ飲んで生きてきたのでしょう。また、パワハラという言葉もない時代を生きてきた彼女には、それへの認識の甘さも正直感じます。例えば、部下のパワハラを業務の一環と置き換え、被害者にも非があるのではと本人に迫るシーンでは、一見相手に寄り添う仕草を見せつつも、最後はまるで本人の意思であるかのような結論へ誘導する。脚本を読んで最も背筋の凍るシーンでしたし、現在の英理子の本質だと感じました。ただ、彼女にも良心はある。だからこそ迷う。そして、目の前にぶら下げられた役員昇進という人参を前に、保身と倫理に揺れる姿には共感しきりで、強さと弱さが背中合わせの彼女の感情を、しっかりと演じたいと思いました。この先物語が進むにつれて、英理子の過去が少しずつ明らかになってきますので、引き続きご覧いただければ幸いです。
ーー夫・正則(田中直樹)に対する強い口調も含め、自分と価値観の異なる相手を認められない弱さも感じられました。
吉田:自分に厳しく、結果を出して来たからこそ他人にもそれを求めてしまうのでしょうね。かつ、パワハラを当たり前に受け、根性論がスタンダードだった世代としては、その価値観をなかなかアップデートできないというのも理解できます。ただドラマとして、加減を間違えると視聴者に嫌われ離脱されてしまうので、そこはどうお芝居で出していくか、監督と相談しながらセリフの言葉選びを調整させていただきました。
ーー英理子の行動は会社員視点で考えるとかなりの「アウト」が連発します(笑)。演じる吉田さんから見て、「この行動はないな」と思う部分はありましたか?
吉田:もちろん倫理的に考えれば、劇中の「シュレッダー事件」などはあり得ないんですけど、でも目の前にニンジンをぶら下げられたときに、果たして自分が正しい選択をできるだろうかと考えたら……正直、私は自信がないんです。自分の環境に置き換えたとき、何か大きい仕事が待っていて、それを阻むものがあるなら、全力で排除しようとするんじゃないかと。だから、アウトだなと分かりつつも、「私も正しさを選び取れる自信はないな」と思いながら演じました。
ーー英理子自身の葛藤も垣間見えます。
吉田:英理子も倫理観がない人ではないので、これが間違っているということは重々承知しているんです。しかも正しく今の位置まで駆け上がってきた人ですから、本当は正しさを選びたい。けれどそうさせないのが会社であり、組織で働くということなのだと。このドラマの一番怖いところは、結局、人間的な判断を鈍らせる会社組織ということかなと。
ーー今回、オフィスサスペンスとしての面白さはもちろん、NHKの「WDRプロジェクト」の第2弾として共同脚本のスタイルが採用されています。演じ手として、このチーム脚本の面白さはどう感じましたか?
吉田:4人の脚本家さんと、プロデューサー、監督がディスカッションを重ねて作っておられるので、世界観や英理子のキャラクターについては統一感がありました。ただ、脚本家さんの出自がそれぞれ違うので、ある人は感情的な、またある人はロジカルな、セリフ回しや言葉選びに個性があったのは面白いなと思ったことです。一人のブレインでは到達できないところに、4人のそれを持ち寄ることで到達しているでしょうし、それが物作りの原点だなと。私たち役者も同じで、現場に入って監督のアイデアや相手役の芝居によって新たに生まれる感情があります。全員で作る共同作業だと思うので、このチーム脚本というスタイルが、もし一人で苦しんでいる脚本家さんを救うのであれば、新しいスタンダードとして広がっていったらいいのになと思いました。