『ブラッサム』“保”金子大地の優しさが際立つ理由 “珠”石橋静河を苦しめる時代の偏見

 かき氷機のアップではじまった連続テレビ小説『ブラッサム』(NHK総合)第17話では、穏やかな日々から一転して運命に翻弄される姿が描かれた。

 帰省中の保(金子大地)に誘われて、会って話をすることが珠(石橋静河)の日課になった。保と会うことは息づまる毎日の中で数少ない息をつける時間だったが、保がどう思っているかは気がかりだったはず。珠と一緒にいれば保も人々の好奇の目にさらされ、よからぬ噂が立ちかねない。

 しかし、保は平然としていた。島村(工藤阿須加)との関係が原因で教員を辞めたことを保は知っていて、その上で「どうでもええことじゃ」と言う。保は京都にいて、三高を卒業したら東京の帝大に進むので、地元での評判など気にならないのだろう。

 この時点で、珠と保の関係は仲の良い異性の友だちにすぎず、だからこそ珠は心のうちを保に話せたのだろう。「初めて人を好きになったのに、その気持ちごと全部、間違いじゃ言われて」。珠が傷ついたのは、島村に嫌われたことではなく、自分の思いをなかったことにされたことだ。理解を示す保は、珠に好意を抱いているのか、それともただの良い人か、この時点で判断はできない。けれども、珠にとって、家族以外で自分を肯定してくれる人に会えた喜びと安堵は大きかっただろう。

 ひと夏の思い出は過ぎ去るのが早く、あっという間に保が岩国を去る日がやってくる。2人の話題は文学へ。ここでの珠と保の対比が興味深い。珠は『イワンのばか』のイワンのように「欲ばらずコツコツ生きよう思うちょる」。決して多くを望んでいない珠と「やっぱり金はほしい」と話す保は、同じ「イワン失格」でも微妙に向いている方向が異なる。自分の新作を保に読んでほしいと言う珠は保を理解者だと思っているので、この違いがどう影響するか気になるところだ。

 珠にとって、岩国での暮らしはこの世の地獄のような日々だ。連続テレビ小説『ばけばけ』(2025年度後期)で、トキ(髙石あかり)が「ラシャメン」という風評を流されて松江の人々から白い目で見られたことにも通じる。地方都市の閉塞感が珠を追い詰めていた。珠だけでなく、家族も肩身の狭い思いをしており、年少の俊子(德丸心結)や英男(德丸夏輝)に影響が及ぶのは観ていてつらい。

 そんな中で、物語の力を示すエピソードが挿入される。珠は、俊子と英男のために久しぶりに物語を作って聞かせるのだが、読んでいるうちに珠のほうが涙ぐんでしまう。フィクションによって心の奥底に押し込めた感情が解放された瞬間だった。

 第17話で物議をかもしたシーンは、保の母で珠の叔母である照子(山田真歩)の来宅だった。用向きは珠の京都行きの提案。「あんた京都へ行かん? 保のとこへ行って一緒に暮らしたらええ」。いったい何を考えているのかといぶかしんでいると、どうやら珠を保とくっつける気らしい。名目上は、一人暮らしの保の世話をするということだが「男と女のことじゃけえね。ゆくゆくは一緒になったらええ」。いくら親戚だからといって、そんなことを言っていいのかと唖然とする。

 照子はわりと本気でこれが良い話だと思っていて「不憫じゃと思って」と珠の現在の境遇を心配している。「保のところで片付くんなら」と話す照子に、思わず「そこに愛はあるんか?」とツッコミを入れそうになる。だいたい珠のことを何だと思っているのか。軽い女だと思って、息子のための結婚要員くらいに考えているのではないか。ひとつ考えられるのは、保の意向が働いていることだ。もし保が珠との結婚を望んでいるとしたら、母親としてひと肌脱いでいる可能性はある。

 ここはちゃんと珠が断って、リョウ(国仲涼子)も「お帰りください」とその場を収めてひと安心。けれども、照子が「岩国じゃあ嫁に行かれんよ」というくらい、周囲から見て珠の置かれた状況は厳しいということである。そのことを裏づけるように、珠は叔父の清重(三浦誠己)から店を辞めてほしいと言い渡される。きっかけは酒代を払いに来た得意先の言動だったが、背に腹は代えられないという本音である。懇願する珠と詫びる清重の対峙はただただ重かった。

■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK

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