興収で読む北米映画トレンド
3時間の“ネタバレ厳禁”ドキュメンタリーに北米で観客殺到 首位は『ストリートファイター』
約3時間、ネタバレ厳禁のドキュメンタリー映画にアメリカで観客が殺到している。ニューヨークなどの映画館では長蛇の列ができ、週末に完売した上映回は2000回以上。「チケットが取れない」という声が相次ぐ熱狂ぶりだ。
A24が放ったそのドキュメンタリー映画『You Can See Everything(原題)』は、10月16日~18日の北米映画週末ランキングで初登場No.2に輝いた。上映劇場わずか855館で、週末興行収入は1500万ドル。同じくA24が今年公開した、ゼンデイヤ&ロバート・パティンソン主演『ドラマなふたり』が3087館で記録した初動成績1430万ドルを上回った。
人気スターの共演作を、約4分の1の館数で凌駕したドキュメンタリー。その“主人公”は、かつて「女性版スティーブ・ジョブズ」と呼ばれた起業家エリザベス・ホームズだ。指先から採取したわずかな血液で多種多様な検査ができるという画期的な技術を掲げ、医療ベンチャー「セラノス」を創業。一時は企業価値90億ドルと評価された。
ところが、実際には技術が宣伝の水準に達しておらず、投資家への虚偽説明が発覚。詐欺罪などで有罪となり、約11年の禁錮刑を言い渡された。ドラマ『ドロップアウト ~シリコンバレーを騙した女』(2022年)などでも映像化された転落劇だが、本作はホームズが服役する34日前から本人と家族に密着し、約3年間をかけて秘密裏に製作された。
監督は、エマ・ストーン主演『THE CURSE/ザ・カース』(2023年)のネイサン・フィールダーと、A24×ロバート・パティンソン主演『プライムタイム』のランス・オッペンハイム。ともにリアリティ番組&ドキュメンタリーとフィクションを越境し、現実と虚構の境界をかく乱してきた異才だ。
本作は9月のテルライド映画祭で観客と批評家を驚かせ、口コミで評判が広がった。作品の評価は圧倒的で、Rotten Tomatoesでは批評家スコア99%・観客スコア98%。大手レビューサービスLetterboxdでは5点満点中4.8点を獲得、サービス史上最高評価となったほか、劇場での出口調査でも観客満足度98%、全体の91%が「強く薦める」と回答した。
A24は公開直前まで作品の全貌を明かさない戦略で観客の好奇心を煽ったうえ、あえて初週の上映館数は抑え、翌週以降に拡大公開する戦略を採用。どうやら本編には「ネタバレ厳禁」の展開が用意されているようで、口コミが拡散されることも踏まえながら、「早く見なければ」と観客を映画館に向かわせるムーブメントを作り上げた。
この仕掛けに反応したのが若者たちだ。観客の70%が35歳未満で、18~34歳だけでも62%。男女比は男性56%・女性44%で、しかも全体の44%がパートナーと鑑賞している。また、観客の41%が鑑賞当日にチケットを購入していたことからも口コミ効果の強さがうかがえる。
ドキュメンタリー映画(コンサート映画を除く)としては、『華氏911』(2004年)に次ぐ歴代2位のオープニング成績。また、1000館未満で公開された映画としては『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)が837館で2640万ドルを記録して以来20年ぶりの大ヒットとなった。
製作費は700万ドルだから、一本の映画としても上々の滑り出し。日本ではクロックワークスが配給権を取得している。
北米では話題をさらわれた格好だが、今週の第1位は『ストリートファイター/ザ・ムービー』。カプコンの人気格闘ゲームを実写映画化したアクション大作で、北米3575館で週末興収は3100万ドル。海外65市場で2010万ドルを稼ぎ、世界興収5110万ドルのスタートとなった。
ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の1994年版は、北米初動680万ドル、最終3340万ドル。今回は初動だけで旧作の北米累計に迫ったが、事前に期待された世界初動7000万ドルには届かなかった。北米でも期待の3000万ドル台半ばには及ばず、同じく格闘ゲーム原作『モータルコンバット2』(2026年)の初動成績を下回っている。
こうした結果の理由として考えられるのは、往年のゲームファン以外を十分に取り込めなかったことだ。PG-13指定と間口は広いものの、観客の45%は35歳超で、12歳未満の子どもを含む家族客はわずか11%にとどまった。
Rotten Tomatoesでは批評家41%に対し、観客スコアは79%とやや高め。観客の出口調査に基づくCinemaScoreでは「B-」評価だった。IMAXを含むプレミアムラージフォーマット上映が北米興収の58%を占めたことからも、大画面で格闘アクションを楽しみたいファン層の需要には応えられたようだ。
本作はレジェンダリーとカプコンが製作費8200万ドルを共同出資し、パラマウント・ピクチャーズが配給を担当。劇場興行の成否は2週目以降にかかっているが、劇場公開後の展開まで見据えればコスト回収は可能だろう。