『ヴィジョンクエスト』第1話&第2話レビュー 斬新な描写で描く3世代にわたる“父子の物語”

『ヴィジョンクエスト』第1話、第2話レビュー

 『ヴィジョンクエスト』の第1話は、ホワイトヴィジョンが自分はヴィジョンであり、同時にヴィジョンではないと名乗るところから始まる。

 彼はワンダと愛し合い、二人の息子を育てた日々を細部まで覚えている。それなのに、その記憶に心が動かない。ワンダも息子たちも失ったと知りながら、悲しいとも寂しいとも感じられない。ベタニーによれば、このヴィジョンは記憶にどう感情を結びつければいいのかわからず、戸惑い続けているという。悲しみが愛の続きなのだとすれば、悲しめない彼は、愛していた実感そのものを持てていないことになる。かつて自分がワンダに語った言葉が、いまの自分を追い詰めているわけだ。

 そんな彼が身を隠しているのは、エディンバラのパブ。かつてワンダと通った店で、エディンバラは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で二人が束の間の暮らしを送った街でもある。何も感じないなら、どこにいても同じはずだ。それでも思い出の場所を離れないのは、記憶に感情が追いつく瞬間を、どこかで待っているからなのかもしれない。

 夜になると、ヴィジョンは頭の中の仮想空間「マインドスペース」へ入る。豪華な屋敷で、そこにはMCUでおなじみの人工知能たちが人間の姿で暮らしている。このあたりの描写が、斬新でかなり面白い。

 屋敷の古株は、トニー・スタークの初代執事AIで、ヴィジョンの人格の土台にもなったJ.A.R.V.I.S.だ。担当は警備。演じるジェームズ・ダーシーは、その名の由来となった執事エドウィン・ジャーヴィスを演じた俳優でもある。社交と戦術を受け持つのは、J.A.R.V.I.S.の後任としてトニーの最期まで寄り添ったF.R.I.D.A.Y.(オーラ・ブラディ)。娯楽と武器という物騒な組み合わせを任されているのは、トニーがピーター・パーカーに遺したサングラス型AIのE.D.I.T.H.(エミリー・ハンプシャー)で、J.A.R.V.I.S.との掛け合いが面白い。さらに『アイアンマン』でトニーの工房にいたロボットアームのダミーとユーも、人の姿で屋敷の保守係を務めている。

 にぎやかな顔ぶれだが、本作は彼らをただの賑やかしとして扱ってはいない。ショーランナーのマタラスは、トニーを守れなかった記憶をF.R.I.D.A.Y.のトラウマとして掘り下げると語っている。守るべき相手を守れなかったとき、AIは何を感じるのか。AIが急速に私たちの生活に入り込み、「AIに感情はあるのか」「AIは傷つくのか」という問いが現実の議論になりつつあるいま、マーベルがAIの喪失や痛みを正面からドラマにすることには、SFの設定以上の意味がある。感情を持てない今のヴィジョンと、誰よりも感情的に振る舞うAIたち。人間らしさを学ぶための仕組みなのに、AIたちのほうがよほど人間くさく見えてくるのが可笑しい。そんな対比も、本作の見どころの一つになりそうだ。

 そして、この屋敷にはもう一人、招かれざる住人がいる。ウルトロンだ。実はヴィジョンは、あの森の対決の際にウルトロンのデータを自分の中に取り込み、以来ずっと閉じ込めてきた。父を破壊しながら、消し去ることはできなかったのだ。ウルトロン役のスペイダーによれば、ウルトロンはヴィジョンの中でテレビやネットを通じて人間の文化を吸収し、絵まで描くようになったという。人類を滅ぼそうとした男が、閉じ込められた先で趣味を見つけ、人間にしか表現できない繊細な感情についてヴィジョンに説くようになっている。ウルトロン自身もまた、この長い時間の中で変化していた。ヴィジョン役のベタニーは二人の関係を、「父と息子のようであり、セラピストとサイコパスでもある」と表現している。

 そんな彼らの静かな暮らしはヴィジョンが賞金ハンターのパラディン(トッド・スタシュウィック)に狙われたことで破られ、本作の物語が動き出す。そのパラディンがヴィジョンを捕えるための材料として目をつけたのが、“トミー”……『ワンダヴィジョン』の最終話で、結界とともに消えた双子の一人である。

 その行方を描いた『アガサ・オール・アロング』では、ワンダの空想から生まれた双子にも魂はあり、もう一人の息子ビリーは、結界が崩れた瞬間に事故に遭った少年の体に宿って生き延びていた。数年をかけて本来の自分を思い出したビリーは、生き別れた弟を探すため、魔女アガサとともに試練の道へ挑む。そしてトミーの魂を見つけ出し、溺れかけていた少年の体へと送り込んだ。ただし、愛情深い家庭に迎えられたビリーとは違い、トミーが宿った体の境遇は恵まれたものではないことも示されていた。その少年こそ、本作に登場するトミーなのだ。スリと組み、詐欺まがいのことをして暮らす彼の姿は、『アガサ・オール・アロング』で示唆された不遇な人生の、その後を物語っている。

 パラディンはトミーを捕らえ、ヴィジョンをおびき出すための交渉材料にする。ところがヴィジョンは、この揺さぶりをはねつける。「感情を持っていたかつての自分ならともかく、いまの自分には意味がない」と言ってその場を立ち去ってしまうのだ。トミーは自分の息子ではなく、ワンダと暮らしていたあのヴィジョンの子どもだ、というのが彼の言い分だった。

 そんな彼に「テセウスの船」の話を持ちかけるのが、ウルトロンだ。『ワンダヴィジョン』で、二人のヴィジョンのどちらが本物かをめぐって持ち出された、あの思考実験である。だがウルトロンは、問いに夢中になるあまり、勇敢なテセウス王の物語を見失っていると指摘する。テセウスは同胞のために、怪物ミノタウロスの退治へ赴いた。それは、生贄として差し出される子どもたちを救うためだった、と。

 テセウスの船は、ヴィジョンにとって「自分は本物なのか」という問いだった。ウルトロンは、その船に乗っていた男が何をしたのかに目を向けさせる。人類を滅ぼそうとした父が、息子に子どもを救う英雄の物語を語って聞かせるなんてなんとも皮肉的だが、そこでヴィジョンの心はようやく動き、彼はトミーを救うために動く。ウィンダーバウムが示した「父子の物語」は、第2話にしてすでに作品の大きなテーマとして存在感を放っている印象だ。

 ウルトロンは本当にヴィジョンを導く父なのか、それとも外の世界へ出る機会をうかがっているだけなのか。トミーは、記憶の中にしかいない父を受け入れられるのか。そしてヴィジョンは、悲しむことを、つまり愛することを思い出せるのか。そしてその先にある「自分自身」をどう獲得するのか。祖父と父と子、3世代の物語がどこへたどり着くのか。MCUで長きにわたってさまざまなキャラクターと共闘し、ようやく主役となったヴィジョンの旅は、まだ始まったばかりだ。

マーベル最新ドラマシリーズ『ヴィジョンクエスト』|本予告|Disney+ (ディズニープラス)

■配信情報
『ヴィジョンクエスト』
ディズニープラスにて独占配信中
出演:ポール・ベタニー、ジェームズ・スペイダー
製作総指揮:ケヴィン・ファイギ
©︎2026 Marvel

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