『遥かな町へ』が描く“過去をやり直さない”物語 昭和の風景に滲む人生のほろ苦さ

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、平成生まれで昭和レトロに弱い玉置が『遥かな町へ』をプッシュします。

『遥かな町へ』

 生まれてもいない時代を、なぜこんなにも懐かしく感じるのだろうか。

 平成生まれの私は、当然ながら昭和という時代を知らない。しかし、世間には「昭和レトロ」を愛する同世代で溢れていて、最近では「平成レトロ」なんて言葉まで生まれている。もはや懐かしさとは、実際にその時代を生きたかどうかとは関係のないものなのかもしれない。

 本作を観ていて真っ先に思い出したのは、幼少期に観た『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)だった。あの映画に映し出されていた、どこか温かく、活気に満ちた昭和の町並み。実際には経験しているはずのない時代なのに、なぜか自分の幼少期の記憶まで蘇ってくるような、不思議な感覚。

 『遥かな町へ』もまた、そんな「知らないはずの懐かしさ」に満ちた一本である。

 舞台は1998年。48歳の建築デザイナー・中原博史(大谷亮平)が、出張帰りに立ち寄った故郷・鳥取県倉吉市で、1963年の町へとタイムスリップしてしまう。しかも、意識は48歳のまま、身体だけが14歳の少年(及川桃利)に戻ってしまうのだ。そこで彼は、若き日の母や妹、祖母、そして、やがて突然失踪することになる父(滝藤賢一)と再会する。

 まず何よりも素晴らしいのは、舞台となる倉吉の町並みだ。昔ながらの家屋や商店、生活感の漂う路地裏。そこには、いわゆる演出された「昭和レトロ」とは異なるような、人々の暮らしに根ざした風景が広がっていた。過剰にノスタルジーを煽るのではなく、日常が営まれている当たり前の光景が、ひたすらに美しい。

 物語もまた、驚くほど緩やかに進行する。主人公がタイムスリップした先で繰り返すのは、学校に通い、友人と遊び、初恋を楽しみ、家族と食卓を囲む、ごく普通の中学生としての日常だ。その一方で、やがて訪れる父親の失踪という避けられない出来事をどう回避するのかが、物語の大きな軸となっていく。

 恥ずかしながら原作は未読なのだが、いい意味で「昔ながらの王道の物語」を観ているような安心感があった。もちろん、タイムスリップという題材自体は映画やアニメで散々描かれてきたものだし、主人公の行動にさして一貫性が感じられないという印象も受けた(中身48歳のおっさんが14歳の中学生と恋仲になるのは、冷静に考えるとかなりしんどい)。

 しかし、本作においてタイムスリップという仕掛けは、あくまでおまけなのだろう。大切なのは過去を変えることではなく、かつて自分が生きた日常を、大人になった目線で見つめ直すこと。そう捉えると、この素朴な物語の進行がむしろ心地よく感じられる。

 そんな本作で特筆すべきは、主演の及川桃利だろう。現在15歳の新星・及川は、2026年夏クールに放送されたドラマ『GTO』(フジテレビ・カンテレ系)にも出演し、鬼塚(反町隆史)が受け持つクラスの生徒・航役を好演した。特に第5話で、家庭の事情から退学せざるをえない航の、やり場のない怒りと悲しみが滲む演技を見せた姿は印象的だった。

 そして本作で演じるのは、見た目は中学生でありながら、中身は48歳の中年男性というやや特殊な設定。少年らしい瑞々しさと、大人ならではの落ち着きを同居させなければならない、非常に難しい役どころだ。面白いのは、及川がこの複雑な役柄を、決して大げさに演じようとしないことだ。ほかの俳優を食うほどの尖りや、爆発的な熱量があるタイプではない。しかし、一つひとつの場面で求められる感情を的確に捉え、常にそのシーンの最適解を提示し続けるような、驚くべき安定感がある。また、ふとした表情には、少年らしい無邪気さと同時に、どこか人生を達観したかのような憂いが漂う。今後の活躍が非常に楽しみな俳優だ。

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