松本穂香、『ブラッサム』梅ちゃんが“癒し枠”に 自然に滲ませる愛嬌と心地よさ
自由に生きたいと願いながらも、父・清治(渡部篤郎)との関係や結婚など、自分ではどうにもできない現実に翻弄されていく葉野珠(石橋静河)。そんな珠のそばで、昔と変わらない調子で接し、息苦しくなりがちな物語にひとときの安らぎをもたらしているのが、松本穂香演じる梅だ。
梅は珠の幼なじみで、岩国で商店を営む岩田家の一人娘。文学にのめり込み、自らの生き方を模索していく珠とは異なり、地元での日々を大らかに過ごしている。屈託のない笑顔と昔から変わらない距離感で珠に接するその姿は、『ブラッサム』における“癒し枠”とも言える存在になっている。
松本にとって朝ドラ出演は、2017年度前期のNHK連続テレビ小説『ひよっこ』以来となる。同作で演じた澄子は、ヒロイン・みね子(有村架純)とともに福島から集団就職で上京し、向島電機で働く少女。大きな丸眼鏡におかっぱ頭、食べることが大好きという個性的なキャラクターで、乙女寮の仲間たちの中でも独特の存在感を放っていた。
『ひよっこ』以降も、松本は幅広い役柄を演じてきた。連続ドラマ初主演となった『この世界の片隅に』(TBS系)では、戦時下の広島・呉で懸命に日々を生きるすずを演じ、映画『わたしは光をにぎっている』では、都会での生活になじめずにいる澪の孤独や揺らぎを丁寧に表現。近年では『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)で、人の嘘を聞き分ける能力を持つ浦部鹿乃子を演じ、他人との関わりを避けてきた彼女が祝左右馬(鈴鹿央士)らと出会い、少しずつ表情をやわらげていく過程を繊細に見せていた。初の朝ドラ出演から約9年。『ブラッサム』で演じる梅にも、これまで培ってきた自然体の芝居と、松本ならではの愛嬌が存分に生かされている。
厳格な父・清治のもとで育った珠にとって、梅は昔から気兼ねなく言葉を交わせる幼なじみだ。梅の父・幸三(八嶋智人)も、葉野家とは長い付き合いがあり、珠たちを幼い頃から知る人物。娘思いでありながら、価値観にはどこか古風なところもある。それでも妻・カツと梅の3人がそろった岩田家には、清治を中心にどこか張り詰めた空気を抱える葉野家とはまた違った賑やかさがある。梅の大らかさを見ていると、この家で育ったことにも妙に納得してしまう。
成長してからは、女学校へ進み文学にのめり込んでいく珠に対し、梅は地元・岩国で暮らしながら、良い縁談への憧れを口にするなど、少しずつ違う人生を歩み始めていく。珠のように当時の女性を取り巻く価値観に疑問を投げかけるわけでもなければ、何か大きな夢を掲げているわけでもない。けれど、梅には梅の生活があり、梅なりの幸せがある。
そんな2人の関係が印象的に描かれたのが第10話だ。子どもたちと羽根つきをするため珠のもとを訪れた梅は、自身の嫁入りが決まったことを報告。「ついに花嫁じゃ」と無邪気な笑顔を見せる。
少し前に結婚を経験した珠にとって、“嫁入り”は決して手放しで喜べるものではない。父が決めた縁談を受け入れたものの、結婚生活は長く続かなかった。一方の梅は、花嫁になることを心から楽しみにしている。同じ時代、同じ町で育った幼なじみでありながら、2人が思い描く幸せの形は少しずつ異なっている。
それでも、この場面で2人の間に流れているのは、気まずさよりも長い付き合いの中で育まれてきた心地よさだ。松本自身も『連続テレビ小説 ブラッサム Part1』(NHKドラマ・ガイド)で、「梅の嫁入りが決まったことを珠ちゃんに話すシーン(第10回)は、演じているときに不思議な居心地のよさがあったので印象に残っています。2人のこれまでの関係を感じさせるシーンになっていればいいなと思います」と語っている。
うれしいことはうれしいと素直に伝え、それを珠も自然に受け止める。何かを共有しているから近いのではなく、長い時間を一緒に過ごしてきたからこそ、違う人生を歩み始めても変わらずにいられる。珠にとって梅は、そういう存在なのだろう。松本の屈託のない笑顔も相まって、この何気ないやりとりが、息苦しい出来事の続いた珠にとって束の間の安らぎにも見えてくる。
『ブラッサム』の松本は、持ち前の親しみやすさと愛嬌を存分に発揮し、梅という役にぴたりとハマっている。珠との間にある長年の付き合いを、説明せずとも感じさせるところもさすがだ。「ついに花嫁じゃ」と嬉しそうに笑う姿を見ていると、珠がどれだけ遠くへ進んでいっても、この幼なじみには変わらず梅らしくいてほしいと思ってしまう。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK