『スキャンダル』ソン・イェジン×チ・チャンウクによる“極上の心理戦” 眼差しで語る愛欲

 Netflixで全8話が配信中の韓国ドラマ『スキャンダル』。配信前から、ソン・イェジン、チ・チャンウク、ナナという豪華キャストの共演が話題となっていたが、配信後は世界および日本の視聴ランキングでTOP10入りを果たしている。

※以下、ネタバレを含みます。

 原作は1782年発表のラクロの古典小説『危険な関係』。韓国では、2003年にペ・ヨンジュン主演の映画『スキャンダル - 朝鮮男女相悦之詞』として大ヒットしたことでも知られる。日本公開当時、筆者も劇場に足を運び、ヨン様の大胆な官能シーンに多くの観客と驚いたものだ(等身大パネルの横に顔はめパネルがあり、女性たちが長蛇の列を作っていたのも懐かしい)。

 舞台は思悼世子の記憶や恵慶宮の還暦祝いという背景が示すとおり、18世紀後半の朝鮮王朝時代。儒教の道徳が社会を縛り、女性が才能を生かすことすら難しかった時代だ。才女として生まれたこと自体が、ソン・イェジン演じるチョ・ユンの最初の悲劇かもしれない。彼女が想いを寄せるのは、チ・チャンウク演じるいとこのウォン。日本では法的に認められているいとこ婚も、韓国では朝鮮王朝時代から現代に至るまで禁じられている。本作は、その血縁の壁に加え、夫の後を追う妻を「烈女」の名のもとに称える風潮によって未亡人へ突きつけられる規範の圧力や、宗教・身分の壁も重ね合わせ、切なくも濃密な愛欲とともに描き出していく。

 チョ・ユン(子役シン・ソヒョン/ソン・イェジン)は、「男なら世に名を遺したであろう」と父が嘆くほどずば抜けた才能を持っていた。若かりし頃、肌を覗かせながら筆を走らせるユンの美しい姿を、ウォンは偶然目にする。その姿は多感な少年の脳裏に鮮烈に刻まれ、ふたりは人目を忍んで「号」(文人の雅号)で言葉を交わして密かに愛を育む。

 しかしユンに縁談が持ち上がり、駆け落ちも叶わず嫁いでしまう。絶望したウォンは、名うてのプレイボーイとなり数多の女性と浮名を流す。互いに心を残しながらも、かたや名家の奥方、かたや虚無を抱えたプレイボーイとして、本心を隠し、口からは思ってもいない言葉を紡いでいく。

 ある日、ユンがウォンに対し夫(イ・ゴン)の側室ソオク(シン・ユナ)を妊娠させてほしいと頼むと、ウォンは左議政家の未亡人ヒヨン(ナナ)に惹かれたと告げる。ユンは、ヒヨンの貞節を奪うことができたら自身を捧げるという賭けを持ちかけ、ウォンは、その賭けに乗ってヒヨンへ接近していく。

 序盤の展開はスローテンポで進むため、正直なところ冗長に感じられる部分もあるかもしれない。「感情や本心をストレートに口に出せない時代」であり、登場人物たちの表情、言葉、胸の内は一致しない。「何を考え、どうしたいか」を自由に選べないからこそ、動機や葛藤も台詞ではなく表情で読み解かせる。俳優たちが繰り広げる高度な心理戦は、抑圧された感情がいかに幾重にも重なっているのかを見せつける、秀抜な演技の応酬だ。

 ソン・イェジンが演じる「悪女」役は非常に新鮮だ。これまで彼女が見せてきたキラキラした姿とは異なる、冷徹で凄みのある表情。ソン・イェジンの眼差しには基本的に強い「善」が宿っているように見える。『愛の不時着』などで見せてきた親しみやすさや愛らしさを知っているからこそ、嫉妬や欲望、怒りといったドロドロした感情を必死で押し殺す複雑な芝居が、これまでのイメージを鮮やかに裏切ってみせる。

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