「アニメの時代」を振り返る:2016~2026
『キンプリ』から『ヒプマイ』『超かぐや姫!』へ “応援上映”が発展した歴史を解説
IP戦略の一部に組み込まれた劇場体験
『キンプリ』以降、観客の応援を促すライブ作品は、アニメにおいて増加していく。
『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』は、映画本編はストーリーはなくライブそのものを上映するという異例の作品だった。同様の形態の作品に『BanG Dream! FILM LIVE』シリーズがある。映画館のライブ会場化そのものを象徴する2作品だ。とりわけ、 『うた☆プリ』シリーズは多くのリピーターに支えられ興行収入は20億円前後を記録している。また『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』も興行収入30億円を記録する大ヒットとなっている。
これら3作品ではゲームが原作、あるいはそれに準じるものとして位置づけられている。日常のタッチポイントはゲームであり、そこからファンを増やし、推しを作らせ「晴れ舞台」である劇場に足を運ばせるという構図となっている。日常のゲームとハレの映画館が相乗効果を生んでいる事例だ。こうした作品群にとって、映画館は、普段応援しているキャラクターたちを映画館という大きな舞台へと押し上げることができたことの成果を見せる場として、コンテンツビジネス的にも重要な機能に位置付けられていると言える。
さらに観客とのインタラクティブ性を推し進めた事例として『ヒプノシスマイク』がある。本作の劇場版『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』では、観客は応援するだけでなく、専用アプリを用いて投票することでチームの勝敗を決める存在であり、ストーリーを分岐させる役割を担う。当然、一回ごとに辿るルートは異なるため、熱心なファンは何度も足を運び、ファンのチームを勝たせるため、あるいは負けたときのリアクションも全て見るために何回も足を運ぶ。投票用のアプリを動かすには映写機に特殊な設備を導入する必要もあり、上映館数は限られたにもかかわらず、リピーターが続出し、25億円の興行収入を記録した。
こうした作品群は、ライブと推し活の相性の良さを示すものであり、映画館という場所が反復可能な体験だけではなく一回性の体験をもたらす場所にもなり得ることを証明する事例だ。
日本以外にも広がる映画館のライブ会場化
洋画はなぜ日本の映画館の中心ではなくなったのか “スター”の時代から“キャラ”の時代へ
日本の映画市場は、劇場へ通う目的が「スター」から「キャラクター(IP)」へ変化したことで邦画・アニメが優勢となり、洋画のシェア低…この波は、アニメだけにとどまらない。前回論じたように洋画は日本国内において低迷しているが、例外的なヒット作はライブ体験の強い作品に多い。今年の『Michael/マイケル』もそうだが、『ボヘミアン・ラプソディ』の100億円超えの大ヒットもライブ性を抜きには語れないだろう。
また、日本だけの現象でもない。テイラー・スウィフトのライブ映画『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』は世界的ヒットとなり、コンサート映画として歴代最高収入を記録している。アメリカの映画館では、観客が声援を送るばかりか、実際のライブと同様にスマートフォンでの撮影すらも許可していた。(※6)
また2025年Netflixの再生記録を塗り替えた『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』(以下、『KPOPガールズ!』)は、同社としては珍しく大規模な劇場公開を英米市場で実施。「シング・アロングバージョン」と称したその上映では、観客がキャラクターと一緒に歌い、週末の興行記録で暫定一位を獲得した。
特に『KPOPガールズ!』はいつでもNetflixで観られる作品であるにもかかわらず、多くの観客がわざわざ映画館に足を運んだ。これはライブ性を備えた映画館での鑑賞体験は、動画配信とはまるで異なるものだということの証左であろう。同じような成功事例として、日本の『超かぐや姫!』を挙げてもいいかもしれない。
『KPOPガールズ!』や『超かぐや姫!』の事例は、映画館は配信に対してどんな優位性を持つのかを端的に表しており、配信と映画館の共存を考える上でも示唆に富むものだ。
2016年以降、映画館における観客の身体のあり方が変化しているのだ。観客は作品を受け取る受動的な存在から、積極的に作品世界を構成する参加する身体となったのだ。
映画館は“IPの晴れ舞台”から“参加の現場”へ
2016年の『キンプリ』の成功は、後続作品に劇場体験の重要性をIP戦略に組み入れさせた。日常のタッチポイントをゲームやアニメの動画配信で作り出す。そして、日常で生まれたファンの熱を爆発させる装置として映画館は位置付けられる。IPの熱量を可視化させることのできるのが映画館なのだ。
今、人は映画館に物語だけを求めているのではなく、ファンのキャラクターの晴れやかな姿を見に行っている。そして、その祝祭空間をともに作り上げるために映画館に向かうのだ。
ファンが熱狂するには、必ずしも完全新作である必要はない。むしろ、すでにある程度内容などを知っているほうが、観客の一体感を作りやすい面もあるだろう。アーティストのライブでも定番の有名曲は盛り上がるが、応援上映でも何度も作品を観ていたほうが、盛り上がりのポイントを掴みやすい。だから、完全新作ではない、配信中の作品であっても大ヒットするようになっているのだ。
さて、次回は、日本アニメに定着している総集編上映や先行上映という事例を通して、劇場の価値を考え連載を締めくくりたいと思う。
参照
※1. https://ticket-news.pia.jp/pia/news.do?newsCd=201003230011
※2. https://www.cinematoday.jp/news/N0052230
※3. https://realsound.jp/movie/2016/05/post-1613.html
※4. https://branc.jp/article/2025/02/17/1450.html
※5. https://realsound.jp/movie/2026/05/post-2389209.html
※6. https://www.grammy.com/news/taylor-swift-the-eras-tour-film-concert-movie-theaters-review/