『ブラッサム』“珠”村上蘭の勇敢さが名残惜しい 石橋静河が紡ぐ宇野千代の壮絶な人生へ
NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第1週「私の父、私の母」が示すのは、主人公・珠(村上蘭)のいる葉野家という少し変わった家族の形だ。
珠への厳しいしつけと近所から“放蕩無頼”と言われている父の清治(渡部篤郎)に、珠が幼い頃に葉野家にやってきた清治の後妻で珠にとっての継母のリョウ(国仲涼子)。珠が綴り方の授業で出された「父について」の宿題、カナリアと一緒に葉野家を逃げ出したリョウから、珠にとっての清治とリョウとはどんな人なのか、そして同時に珠の人物像を描き出している。
珠が目にした、月明かりの縁側でカナリアを見つめる、どこか物悲しい父の表情。珠は「そこに、放蕩無頼の徒は見当たりませんでした」と作文を締めくくった。上機嫌の清治だったが、リョウがカナリアを鳥籠から逃がしてしまったことに怒り狂い、酒を煽る。“恐ろしい父親”というイメージを4回分の放送でこれでもかと植え付け、清治が大事にしていたカナリアを離すという展開には、放送に先駆け行われた試写会でも「あぁ……!」と方々から声が漏れ聞こえてきたのを思い出す(“ひよこ丼”にも驚く人多数だった)。
カナリアを捜す森の奥で珠の脳裏に浮かんできたのは、「お前だけ、置いていかれてしもうたの。『珠様、珠様』言うちょっても、いざとなったら、このありさまじゃ」という泥酔した清治のリョウへの愚痴。本当の娘ではない自分に、リョウはなぜ愛情を注いでくれるのか。そのことを確かめるべく、珠はリョウの実家へと走る。
両親から、清治とも珠とも縁を切るよう説得されるリョウだったが、家の外から語りかける珠に思わず駆け寄り抱きつく。リョウが珠と初めて会った日に感じた「絶対大事に、特別大事にせんといけん思うた」という心情。あの日、リョウは珠に手を握られたことでそう心に誓っていた。そのことを改めて噛み締めたリョウは、愛情を込めて“珠様”と呼ぶ。珠自身が望んだ呼び名だ。
リョウは珠や子供たちと葉野の家に戻る。出かけたと見せかけての、襖の奥からの清治は恐怖でしかない。カナリアは見つかっておらず、清治は怒り心頭だ。「どうするつもりならあ!」と怒鳴りつける清治に、ひれ伏す珠たち。リョウにじりじりと詰め寄る清治の前に、珠が立ちはだかった。
「カナリアは戻らん。もう、カナリアなんかどうでもええ! うちが、お母のほうが大事じゃ! お願いします! お母を許してください! みんなでここにおらせてください! うちはここにおりたい! うちにはここしかないんです!」という必死の訴えに、清治は「ここの何がええんじゃ」と問いかける。「お父様とお母とみんながおる。うちはこの家におりたい!」と主張する珠に、睨みを利かせる清治。手を取り合うリョウと珠の姿に清治は「好きにせい」と言ってその場を去っていった。
このシーンが幼少期の珠を演じる村上蘭としては最後の場面。舞台は5年後、大正2年(1913年)の高等女学校の4年生となった珠(石橋静河)へと成長した姿で第1週は幕を閉じる。錦帯橋から桜並木を眺める袴姿の珠が言う「綺麗じゃ!」という笑顔に、ここから物語が紡がれていくことを感じさせながら、村上蘭の芝居がこれで見られなくなるのにも寂しさを覚える。あの清治に食って掛かっていく勇敢な眼差しに、リョウの胸の中で安堵して涙する娘としての幼き姿。朝ドラ『おちょやん』(2020年度後期)を観て朝ドラ出演を夢見たという村上蘭は12歳。これからが楽しみになる役者を見た。
『ブラッサム』の第1週を観て改めて感じるのは、全体構成と食事のシーンの大切さ。タイトルバックまでのアバンで85歳の珠(加賀まりこ)とその秘書の藤川優子(松たか子)を登場させ、これからの波瀾万丈な展開を予感させる。『ばけばけ』(2025年度後期)と同様に宇野千代という実際の人物をモデルにしていることからできる演出だが、別の俳優が晩年のヒロインを演じ、最終盤へと“ロングパス”を繋ぐというのは、朝ドラとしては実はあまりない(『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)はその逆のパターン)。そして、朝の時間に見る美味しそうな食事の画。ぶりんぶりんに実が弾ける八朔をリョウが子供たちに食べさせる様子を見て、筆者は「家族だな」と感じたのだった。
85歳の珠が記者から過去の“数々のロマンス”について聞かれ、「そう。モテたのよ、私」と答える場面がある。NHKでは『ブラッサム』の放送に伴い、宇野千代の半生や生き方を辿る特集番組がいくつもオンエアされてきた。そのほとんどで紹介されているのが4度の結婚と離婚、会社の倒産、多額の借金といった壮絶な人生。「これを朝ドラで描けるのか?」と思わせるエピソードもあり、先述した珠のセリフはその宣言とも取れるだろう。第1週では清治が珠に雨の中を裸足で買い出しに行かせる場面があったが、史実では雪の中を学校に行かせていたという驚きのもので、そんなふうに少し朝ドラとしてマイルドに描かれるのかもしれない。
宇野千代が伝えているのは、つらい中にも楽しみを見出す強さ。それは厳しく封建的な父との経験がどんな逆境でも諦めることのない屈強な宇野千代=葉野珠の精神を形作っている。どんな苦しみも作品へと昇華する、何度でも咲き誇る葉野珠の物語が始まった。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK