『ブラッサム』“清治”渡部篤郎が巧みに表現する葛藤 “籠の中の鳥”を見つめる父娘
85歳の葉野珠(加賀まりこ)が、錦帯橋から満開の桜を眺める。珠は、そんな美しい光景を見ると、懐かしさと共に故郷から逃げた負い目を感じるようだ。
NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第3話では、岩国に縛られている珠(村上蘭)の父・清治(渡部篤郎)と、物書きとしての才をのぞかせる珠珠の姿が描かれた。
自分と重ねるようにカナリアを見つめる清治の元には、実家の使いがやってくる。清治は、弟の清重(三浦誠己)に、実家の酒蔵の当主の座を譲った代わりに、毎月金を受け取っていた。清治が働かなくとも、葉野家が路頭に迷わない理由はここにあったのだ。使いを通じて弟から働くように諭された清治は、清重と話し合うことに。
座敷で対面する兄弟。清治はにこやかに弟を迎え入れ、酒とどんぶりを勧める。が、丼の中からはひよこがピヨピヨと……。清治にはまったく働く気がなかった。
「なぜひよこ?」と問いたくなるユーモラスなシーンだったが、清治を演じる渡部篤郎の表情に思わず目が奪われてしまった。「これが答えじゃ。意地でも働くか」と穏やかな笑みを見せたかと思えば、「こっちのセリフじゃ!」と睨みを効かせる。
長男ながら金を条件に家督を譲った事実、足が悪い清重が生きていくためには仕方がなかった諦め。清治がそんな現実にどうにか折り合いをつける術が、傍若無人に振る舞うことなのかもしれない。朝ドラ名物のダメな父親かと思いきや、清治には複雑な葛藤があるようだ。まだ第3話にもかかわらず、渡部が演じることによって、清治の人物像が立体的に浮かび上がってくる。
清重は清治に、「そがあなことしても、兄貴の窮屈は……変わらん!」と捨て台詞を吐く。家督を継がなくても、岩国にいる以上、実家の支配下にある。現に、清治の生活は実家の売上によって支えられている。自由に飛べるはずなのに、籠に収められているカナリア。清治自身も自分の人生をどのように扱えばいいのかわからないのかもしれない。
第3話では、清治が珠に酒のつまみのお使いを頼むシーンがあったが、間違えずに買い物をしてきた珠を褒めることもしなかった。むしろ、どこか悔しそうな雰囲気すらあった。清治は自分が窮屈な分、家族を支配するような態度をとっているのだろうか。
一方、珠は「父」をテーマにした綴方の宿題に頭を悩ませていた。ある夜、珠が見たのは夜桜が舞う縁側で、月に照らされながらカナリアを見つめる清治の姿。その物悲しくも美しい光景を、珠は必死に紙へと書きつける。原稿に向かう村上の表情は、第1話で描かれた書かずにはいられない晩年の珠の姿を彷彿とさせた。心が動いたら、書かずにいられない。そんな珠の人生をこれから見守っていくことになるのだろう。
なお第3話でも、昭和57年(1982年)を生きる珠と秘書・優子(松たか子)の姿が描かれていた。本作では、ヒロインの幼少期シーンを、晩年からの回想と位置付けているということだろう。初週から毎朝、加賀と松に会えることが単純にうれしい。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK