『風、薫る』患者の死に直面した“ゆき”中井友望の動揺 “フユ”猫背椿の言葉の重みと納得感
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第46話では、初めて患者の“死”に直面した看護婦見習い生の動揺が描かれた。
心臓が弱く、帝都医科大学附属病院に入院している患者・小野田(宮地雅子)の容態が急変。担当医の坂田(金井勇太)は回復の見込みがないと判断し、ゆき(中井友望)とトメ(原嶋凛)に家族への連絡を促す。しかし、小野田の家族は広島の商家に嫁いだ娘だけで、すぐには会いにこられない。そこで、ゆきは寝ずの介護を申し出るのだった。
一時期はせん妄の症状が出ていたが、明け方に一瞬だけ意識が回復し、そばに付き添っていたゆきに「娘を……」と求めた小野田。そして「もうすぐいらっしゃるって」というゆきの言葉に穏やかな表情を浮かべた後、間もなく息を引き取った。印象的だったのは、ゆきとトメの対応の違いだ。トメは冷静にその場で脈がないことを確認し、静かに頭を下げたが、ゆきは小野田の亡骸に泣いてすがるだけだった。
ナイチンゲールに心酔し、座学の間は崇高な看護の理想を掲げていたゆき。だが、研修が始まってからは、少しずつ表情に翳りが帯びていくのが見えた。まだ看護の概念が存在していない医療現場にはナイチンゲールの教えとは真逆の光景が広がっており、理想と現実とのギャップに戸惑っていたのかもしれない。
そんなときに担当することになったのが小野田だ。離れて暮らす娘に会えない寂しさの中、小野田は優しく接してくれるゆきやトメに心から感謝していた。ゆきはようやく看護の仕事にやりがいを得ると同時に、彼女にできる限りのことをしてあげたいという使命感に駆られたのだろう。しかし、そうしているうちに看護婦として以上の感情を持ってしまったのだ。
ゆきは小野田が亡くなってから布団に篭もり、仕事に行けなくなってしまう。そのため、トメが一人で担当する病室のシーツ替えを担うことに。見かねた直美(上坂樹里)がトメを手伝うが、直美が抜けた穴はバディのりん(見上愛)が埋めなくてはならない。看病婦のフユ(猫背椿)に「人が少ないならやり方考えて」と言われ、「家事だと思って?」と返すりん。そんなふうに軽口を叩けるほど打ち解けた看病婦たちの協力もあって、どうにか現場は回っているが、ゆきが休んでいることで全員に負担がのしかかっているのは事実だ。
ここでようやくフユが話していた「この仕事は家事だと思ってやらないと間違えるよ」という言葉の意味が理解できた。病院で働く以上、“死”は避けられないものであり、どれだけ懸命に看病しても回復せず、亡くなってしまう患者は存在する。ゆえに家事のように感情を入れず、無心で淡々とこなす必要があるのだろう。そうしなければ、いざというときに本人が辛くなるのはもちろん、今回のように周りにも迷惑がかかるのだ。さすがはこの道10年のベテラン、言葉の重みと納得感が違う。
そんな中、バーンズ(エマ・ハワード)がゆきの寝ている居室へ。他の見習い生たちが心配になってついていくと、バーンズはゆきの布団を無理やりはがし、「今からここで授業をします」と告げる。気になるのは、前回バーンズが見習い生たちに語った言葉だ。不器用だから手術介助をやりたくないと言った直美に、バーンズは「人には向き不向きがありますから。命と向き合う看護の仕事は特にそうです。皆さんもよく考えてください」と返していたが、あれは特にゆきに向けた言葉だったのではないだろうか。ゆきが患者の死をどうしても受け入れられないのであれば、それは看護婦には向いていないということになる。バーンズが特別授業で語る言葉、そしてゆきの決断に要注目だ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK