松山ケンイチはなぜプロフェッショナルが似合うのか? 『時すでにおスシ!?』はまさに真骨頂

 プロの職人には、技術を身につけるまでの長い歴史がある。その「歴史」を滲ませることは、極めて難しい。ところが松山が演じると、その役が歩んできた時間までもが映像の中に立ち上がってくるから不思議だ。

 松山が演じる「大江戸」は、生徒の前で包丁を扱う手つきや、しゃりを握る所作も手なれたもので、まさに職人そのものだ。指先ひとつ、視線ひとつにまで意識を行き届かせようとする姿勢があるからこそ、職人や専門家を演じても、まるで何年もその道で生きてきたかのようなリアリティが立ち上がるのだろう。

 さらに、「大江戸が、無類の貝好き」という設定に触れるシーンでは、表情がふっと柔らぎ、声にも丸みが宿る。その変化には、彼自身の人柄が滲んでいた。厳しい職人としての顔とは異なる、人情味あふれる瞬間が覗くことで、そのギャップが「大江戸」という人物の魅力をいっそう際立たせていた。

 松山は、ひとつの役の中で「ギャップ」を演出するのが実に上手い。たとえば『リブート』(TBS系)では、鈴木亮平演じる儀堂歩に「リブート」するパティシエ・早瀬陸を演じたが、ケーキ作りに向ける眼差しは鮨職人・大江戸とはまったく異なり、甘いものを愛する柔らかな瞳をしていた。

松山ケンイチ、サプライズ以上の説得力 『リブート』第1話における“主役級”の存在感

日曜劇場『リブート』でてっきり“顔を変える=リブート”前も鈴木亮平が演じ分けるものだと思っていたが、予想を覆してサプライズ登場し…

 しかし、妻を殺され、真相を追い詰めるために息子へ「必ずお母さんを殺した人を捕まえる」と目を潤ませて語るシーンでは、迫力と凄みが一気に立ち上がる。その演技の切り替えっぷりは、まるで「別人」が憑依したかのようにも見えた。

 『時すでにおスシ!?』は、物語が進むにつれて、大江戸が生徒たちと触れ合ったり、一緒に酒を酌み交わしたりする中で、少しずつ「素」の部分を見せていく。それでも、大事なことを伝える時には、鮨職人として立つ時と同じように、相手をじっと見つめ、一呼吸置いてから言葉を紡ごうと奮闘する。リラックスしている場面でも、眉間や額にふっと皺が寄る癖が変わらないのも印象的だ。松山は、その人物が昔から抱えてきたであろう「癖」までも意識して演じるからこそ、キャラクターが抱えてきた「背景」がより濃く感じられるのかもしれない。

 第4話のラストでは、夫を失ったつらい過去を語るみなとに対し、大江戸は「安い言葉はかけるべきではないが、話してくださってありがとうございます」と、真剣なまなざしで静かに礼を述べる。そして、みなとが夫を亡くして途方に暮れ、走り去っていた姿を偶然見かけていたことを明かした上で、「一方的に見かけた記憶が、まさか出会いに変わるなんて」と意味深な言葉を残す。

 心が揺れたみなとはその後、犬を散歩する大江戸が澪(土居志央梨)と親しげに過ごす姿を偶然目撃してしまう。第4話の予告では、2人が布団で背中合わせに寝ているシーンが映し出されていた。大江戸とみなとの関係は、この先どんな方向へ進んでいくのか。

■放送情報
火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:永作博美、松山ケンイチ、ファーストサマーウイカ、中沢元紀、山時聡真、杏花、平井まさあき(男性ブランコ)、後藤淳平(ジャルジャル)、猫背椿、関根勤、有働由美子、佐野史郎
監督:坪井敏雄、岡本伸吾、金子文紀
脚本:兵藤るり
編成プロデュース:松本友香
プロデュース:益田千愛、鈴木早苗
主題歌:Creepy Nuts「Fright」(Sony Music Labels Inc.)
音楽:青木沙也果
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tokisushi_tbs/
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