『風、薫る』佐野晶哉の登場シーンが強烈 絶妙なバランスで放つ“シマケン”の存在感
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第3週「春一番のきざし」第12話では、シマケンこと島田健次郎(佐野晶哉)が本格登場した。りん(見上愛)の前に颯爽と吹き抜ける“春一番”。出演シーンは5分ほどとそこまで長いわけではないが、その密度とインパクトは絶大だ。
流暢なフランス語、丸メガネ、ボサボサ頭、くたびれた袴。外国語オタクのシマケンは、りんの栃木訛りに「西の言葉の抑揚ではなさそうだ」とぶつぶつ分析を始める。りんの言う「先生」という言葉にもいちいち反応する、理屈っぽく、こじらせた性格だ。先生や通訳といった「何者か」、つまりは役目に当てはめたがるりんに対して、シマケンは「生きていける社会の方が僕は助かりますけどね」と返す。りんにとっては、卯三郎(坂東彌十郎)の時に続く、「社会」という言葉との再会だ。
一見すると金田一耕助のような冴えない風貌だが、シマケンには爽やかな華がある。生きる上で役に立たない言葉を知るのが好きだというシマケン。りんが「変わりもんですね」と笑うと、彼も笑みを浮かべながら「じゃあ、君は何者? お役目は?」と問いかけてみせる。嫌味ったらしい一面もあるが、環(宮島るか)の頭を撫でながら「またね」と白い歯を見せたり、「俺は、何者でもない。変わり者の島田健次郎。シマケン」と自ら名乗ったりと、気がつくとスッと懐に溶け込んでいる。この絶妙なバランスを成り立たせているのは、演じる佐野晶哉が醸し出す雰囲気と確かな演技力あってのものだろう。
一方、直美(上坂樹里)は鹿鳴館でメイドをすることになった。「娘のため、生きるため、できることは何でもやろうと思って」と吉江(原田泰造)に話すりんの言葉を聞き、直美はメアリー(アニャ・フロリス)から譲り受けたドレスを着て、捨松(多部未華子)のもとへと会いに行く。馬車の前で立ちくらみをした芝居を打ち、通訳の父親が病に倒れたという嘘をついてまで働き口を願い出るのだ。
アメリカには行けず、直美の生まれではまともな結婚はできず、マッチ箱を作るだけでは生きてはいけない。直美が鹿鳴館で働くのは、自らの足で立ち、まともな結婚をするためだ。「この際、どんな手を使ってでも生きてやろうと思って。This is my life.」と力強く宣言した直美を、メアリーは優しく抱きしめた。
瑞穂屋での接客のため英語を勉強し始めたりんと、メイドとして働く鹿鳴館で英語を武器にするため、ますます勉強に励む直美。卯三郎からもらった辞書の小口がまだ真っ白なりんに対して、直美の辞書は茶色く汚れており、その泥臭く勉強に打ち込む日々が垣間見える。
また、第12話だけでも、「リターンさえ頂けるのなら」「訳ありの親子。何かしらリターンはあるでしょう」と、卯三郎は「リターン」という言葉を何度も口にしている。月3円(ちなみに、同時代を描く『ばけばけ』のウメは月90銭)という多額の月給を支払うまでに、先見の明を持つ卯三郎がりんに期待する「リターン」とは一体何なのだろうか。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK