『風、薫る』北村一輝のあまりに早すぎる退場 コロナ禍を思わせる“会えない”もどかしさ

 信右衛門(北村一輝)から過去を打ち明けられたばかりのりん(見上愛)に、今度はあまりにも過酷な現実が突きつけられた。3月30日にスタートしたNHK連続テレビ小説『風、薫る』第4話では、りんが病に倒れた信右衛門の看病に奔走する姿が描かれた。

 信右衛門の身に異変が起きると、りんはすぐに看病してくれる人を雇おうと家中の金をかき集める。だが、手元にある金だけでは十分ではない。しかも、一ノ瀬家にはコロリの張り紙が貼られ、村人たちはあからさまに距離を取るようになる。病そのものの恐ろしさはもちろんだが、それ以上に痛ましいのは、感染への恐怖が人と人との関係まで分断していくことだろう。りんが置かれた状況は、看病の困難さだけでなく、共同体のなかで孤立していく苦しさまで含んでいた。

 そうしたなかで、信右衛門は自ら納屋にこもり、りんを近づけまいとする。水すら替えさせないその態度は、一見すると突き放しているように見える。だが、そこには娘を感染から遠ざけたいという、父なりの切実な思いがにじんでいたのだろう。大切だからこそ距離を置く。守りたいからこそ拒む。その不器用な優しさが、りんにとってはなおさらつらい。近くにいるのに何もできないという現実が、この回全体に重い緊張感をもたらしていた。

 一方で、美津(水野美紀)と安(早坂美海)が村へ戻ろうとしても、封鎖によって家に帰ることすらできない展開も印象深い。村でコロリが流行している以上、それは理屈としては正しい判断なのだろう。だが、正しさがそのまま救いになるわけではない。会いたい人に会えない、帰りたい場所に帰れないという現実が、りんたちの孤立をいっそう際立たせていた。

 そんななかで胸を打つのが、りんが納屋の外から信右衛門に向けて折り鶴を捧げ、大声で歌を届ける場面だ。触れることも、そばで手を握ることもできない。それでも、何かを届けたい。その一心で声を張り上げるりんの姿は、感染症によって人と人との距離が遮られた時代の痛みをまざまざと突きつける。誰かを思う気持ちはあるのに、近づくことが許されない。そのもどかしさは、2020年以降、私たちが新型コロナウイルスの流行下で経験した日々を思い起こさせる。会いたい相手に会えず、思っていても距離を取らなければならなかった時間の痛みが、この場面には確かに重なっていた。

 だからこそ、信右衛門が最期に残した「生きろ、りん」「お前はきっと、やさしい風を起こすから」という言葉は重く響いてきた。父を救えなかった経験は、りんに深い悲しみを残したはずだ。それでもこの別れは、目の前の命に手を差し伸べたいという思いを、りんの中に確かに刻んだのではないだろうか。

 りんにとって、この出来事は人生の大きな始まりになったのだろう。信右衛門の最期の言葉と、このときの喪失が、これからのりんの生き方を形づくっていくはずだ。第4話は、『風、薫る』が描こうとしている優しさの原点を、はっきりと示した回だった。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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