『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』にみる、メディアミックスとしての挑戦と課題
本作のメインエピソードでは、通称「のっぺら坊」と呼ばれる囚人がアシリパ(山田杏奈)の父親であるという情報をもとに、彼女との対面を実現させようと杉元(山﨑賢人)の一派や土方(舘ひろし)たちが網走監獄への侵入を試みる姿が描かれる。そのなかで、鮭の切り身やアイヌの料理「チタタプ」の調理や食事シーンも表現される。
アイヌにルーツを持つ人によって、その扱いについて賛否の意見が飛び交う『ゴールデンカムイ』だが、こうした紹介がアイヌ文化の紹介になっている点があるのは確かなことだろう。また、谷垣(大谷亮平) とインカラマッ(高橋メアリージュン)とのラブストーリーも、風習に絡めた見どころが用意されている。
なかでもインパクトが強いのは、「ラッコ鍋」のくだりだ。ラッコの肉に媚薬効果があるというのは伝承上の話であるらしいが、ここでは男性陣だけでこの鍋を食べることで狂騒状態となる。原作にもあるエピソードではあるが、これがアヴァンタイトルとして配置され、印象的なシーンとなったのは、原作ファンにとっても驚きの点であっただろう。振り返ってみると、これが本作でもっとも際立った“挑戦”だったのかもしれない。
とはいえ、極寒の地でラッコの肉を食した男たちが、理性を失って半裸の肉体となり取っ組み合いをしながら夜を明かすという描写は、現代の表現における倫理面で、いくつかの問題を感じる部分ではある。一つは、これが「クィア・ベイティング」にあたるのではないかという視点だ。これは、性的マイノリティ当事者ではない人物が、そうである可能性を曖昧にほのめかすことで、注目を集めたり支持を得ようとする手法を指すもの。今回は、それをさらに笑いの文脈で消費させている点が、問題を深刻化させているといえる。
こうした描写の本質的問題は、性的マイノリティのステレオタイプを強調して誤解を広めてしまったり、そのイメージに性的な要素をことさらに繋げたり、笑っていい存在だと認識させてしまうおそれがある。こういった表現のノリは、とくに過去の日本のTVにおけるバラエティ番組のそれを再生産してしまっている部分がある。“原作の再現”といった命題があるにせよ、2026年の公開作としてこれをあえて目立たせてしまっているのは、それ自体が“映像化”という行為についての課題を投げかける。
いずれにせよ、こうした問題や、さまざまな魅力も含めた総合的な内容が、本作のなかにたくさん詰まっていることは、確かなところだ。しかし本作における原作をなぞったストーリーが、一つの映画作品のなかできれいに収まっているかというと、そうでもない。章立ての区切りのような落ち着きを見せるところはあるものの、さまざまな要素の決着は今後に持ち越され、サスペンスはありつつも大きなカタルシスを得られるクライマックスも存在しないため、どうしても“途中のエピソード”として認識せざるを得ず、とくに映画としてカッティングした意味が希薄に感じられてしまう。これは、長大なストーリーの一部分を映画化する際の、メディアミックスにおける課題となる点だ。
しかし、アイヌ文化を本格的に扱った内容を日本で大規模公開作として広めた点や、北海道を舞台に、戦争や差別によって心身ともに傷ついた人々を描いたという意味において、本作は継続的なプロジェクトとの一部として評価され得るものだというのも、また確かなことだろう。本作がストーリーの一部として機能するものである以上、その評価はドラマや今後の映画化作を含めた上で再検証されることになりそうだ。
参考
※ https://www.kangoku.jp/history-culture/prison-stories/4
※ https://www.meijimura.com/sight/%E9%87%91%E6%B2%A2%E7%9B%A3%E7%8D%84%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E7%9C%8B%E5%AE%88%E6%89%80%E3%83%BB%E7%9B%A3%E6%88%BF/
※アシリパの「リ」、インカラマッの「ラ」は小文字が正式表記
■公開情報
『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』
全国公開中
出演:山﨑賢人、山田杏奈、眞栄田郷敦、工藤阿須加、栁俊太郎、塩野瑛久、稲葉友、矢本悠馬、大谷亮平、高橋メアリージュン、桜井ユキ、勝矢、中川大志、北村一輝、池内博之、木場勝己、井浦新、玉木宏、舘ひろし
原作:野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
監督:片桐健滋
脚本:黒岩勉
音楽:やまだ豊
主題歌:10-FEET「壊れて消えるまで」(UNIVERSAL MUSIC / BADASS)
アイヌ語・文化監修:中川裕、秋辺デボ
製作幹事:WOWOW・集英社
制作プロダクション:CREDEUS
配給:東宝
©野田サトル/集英社 ©2026 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
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