『嵐が丘』古典文学を現代ポップカルチャーとして再定義 チャーリーXCXの楽曲が胸を打つ

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、チャーリーXCXの来日公演を待ち侘びている宮川が『嵐が丘』をプッシュします。

『嵐が丘』

 ウィリアム・ワイラー、ルイス・ブニュエル、ジャック・リヴェット、アンドレア・アーノルド、吉田喜重……名だたる映画監督たちによって、これまで幾度となく映画化されてきたエミリー・ブロンテ生涯唯一の小説『嵐が丘』。『プロミシング・ヤング・ウーマン』『Saltburn』のエメラルド・フェネルが新たに映画化した『嵐が丘』は、クラシックの再解釈という枠組みを軽々と飛び越え、2020年代の映画シーンにおける“決定的な一打”となる可能性を秘めている。

 『プロミシング・ヤング・ウーマン』『Saltburn』と“復讐”を描き続けてきたフェネル。彼女が最新作の題材に選んだのが、幾度となく映像化されてきた愛憎劇の金字塔であることは極めて示唆的だ。本作で彼女が試みたのは、原作の忠実な映画化ではない。古典文学を現代のポップカルチャーとして描き出し、2020年代の“今”をそこに投影している。

 最も“今”を体現しているのは、2024年にリリースされた『ブラット』で世界的な大ブレイクを果たし、グローバルポップアイコンとなったチャーリーXCXだろう。監督のフェネルから直接音楽の依頼を受けたチャーリーは脚本を読んで強く心を動かされ、すぐに全曲を書き下ろしたという。中でも、イントロから高揚感が爆発する「Dying for You」は何度もリピートして聴きたくなる2026年のアンセム。〈Ever since I can remember, I've felt it in my bones
A tragic destiny was reserved for me all on my own(物心ついた頃から、私は骨の髄まで感じていた 私にだけ悲劇的な運命が用意されていることを)〉という、主人公キャサリンの心情をそのまま歌ったような歌詞が胸に突き刺さる。

 主人公キャサリンを演じたのは、監督のフェネルが役者として出演し、チャーリーXCXもサントラに参加した『バービー』のマーゴット・ロビー。『バービー』に続いて本作でもプロデューサーも兼任しており、まさに現代アメリカ映画の最重要人物の一人であることを本作でも証明している。

 対するヒースクリフを演じているのは、『フランケンシュタイン』のジェイコブ・エロルディ。196cmという長身と甘いマスクで、キャサリン(マーゴット・ロビー)やイザベラ(アリソン・オリバー)を翻弄していくヒースクリフはまさに“エロス”を体現している存在だ。身分の差や己のプライドによって引き裂かれるキャサリンとヒースクリフによる地獄とも言えるような恋愛関係は、2020年代の恋愛観にも通じている。

 「愛は救いではなく、傷である」。劇中で描かれるその無慈悲な真理は、SNS社会における他者への執着や、自己愛の肥大化に喘ぐ現代の我々にこそ、鋭く突き刺さるはずだ。

■公開情報
『嵐が丘』
全国公開中
出演:マーゴット・ロビー、ジェイコブ・エロルディ、ホン・チャウ、オーウェン・クーパー
原作:エミリー・ブロンテ
監督・脚本:エメラルド・フェネル
製作:マーゴット・ロビー
音楽:チャーリー・XCX
配給:東和ピクチャーズ・東宝
原題:Wuthering Height
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