『テミスの不確かな法廷』が問い続ける“普通”とは何か 齋藤飛鳥の“人生”を感じる名演も
誰もが今回の再審請求審を通して、過去の過ちと向き合おうとしている。8歳の時に祖父母から事件のことを聞かされた亜紀。刑務所にいる秋葉から会いたいと言われても頑なに拒絶したのは、自分が置かれた立場を自覚することが怖かったからだろう。父は病死だった、自分は死刑囚の娘ではないーーそう思いたいがために事件から目を背けてきた亜紀だったが、自分が親の立場になってようやく父がくれた愛情を思い出した。事件当夜、父が4歳の誕生日を祝ってくれたこと。亡くなった母親の代わりに「亜紀はお父さんが守るから」と抱きしめてくれたこと。その模様を録画したVHSには、正確な日時が示されている。
「私しか証明してあげられない。父はやってない。犯人じゃない。私は、それを知っている。検察にある証拠を出してください。それで父の無罪は証明できるはずです」
亜紀の陳述は、齋藤飛鳥の25年という日々の積み重ねを感じさせる演技によって胸に迫るシーンになっていた。だが、結城をはじめとする検察側は証拠提出の求めに「不見当」という回答を出す。検察官・古川(山崎樹範)の調べで押収品のVHSが現存していることが判明したにもかかわらずだ。つまり、そこに検察側にとって不都合な真実が隠されているということである。
不純物が一切ない澄み切った状態を表す清いの“清”と、希望の象徴である“春”を合わせて「清春」。息子にその名前をつけた結城が、生まれたばかりの子どもを腕に抱いた時の愛おしさを知っている結城が、なぜ真実を覆い隠そうとするのか。そもそもなぜ、秋葉が一貫して容疑を否認し、アリバイも存在していたにもかかわらず、自白を強要したのか。検察の威厳を保たなければならないという組織からの圧力もあるが、それ以上に彼は手応えや成果を得たかったのではないだろうか。息子にいくら注意しても聞いてもらえない、自分の言葉が届かない。子育てで得られない手応えや成果を結城は仕事に求めた。その結果が、自白の強要に繋がった部分は大いにあるように思う。
「どうして“普通”にできないんだ。どうしてみんなと同じようにできない?」と幼い安堂を責め続けた結城。だが、その「“普通”とは何か」という問いに向き合ってきたのが本作だ。同僚の門倉(遠藤憲一)や落合(恒松祐里)、弁護士の小野崎(鳴海唯)など、はじめは安堂を奇異の目で見ていた彼らも大概変わり者である。もちろん、彼らと安堂には発達障害と診断されているかされていないかの違いはある。しかし、「変わってるって褒め言葉ですよね? 個性的ってことでしょ?」という小野崎の言葉の通り、それぞれに“普通”という基準から外れた個性があり、その人にしかできないことがある。実際に安堂はこれまで、違和感を無視できない特性によって埋もれゆく真実を次々と掘り起こしてきた。その真実に心を救われた人が大勢いる。第2話で「名前は親からの最初のプレゼント」と言っていた安堂は、その名前に込められた結城の願い通りの人間に成長しているではないか。
両親の離婚後、母親に引き取られることになった安堂は家を出ていく結城の腕を掴んで引き留めようとした。だが、今度は真実を闇に葬り去ろうとする結城の腕を掴み、「僕は真実を知りたい。再審請求審に加わり、25年前に何があったのか、必ず明らかにします」と宣戦布告する。安堂は今、結城が残した「どうしてあの子は普通じゃないんだ。まるで宇宙人だ」という言葉に打ち勝つことで、本当の意味で自立の時を迎えようとしているのかもしれない。
■放送情報
ドラマ10『テミスの不確かな法廷』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送(全8回)
※毎週木曜24:35〜25:20再放送
NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定
出演:松山ケンイチ、鳴海唯、恒松祐里、山崎樹範、山田真歩、葉山奨之、小木茂光、入山法子、市川実日子、和久井映見、遠藤憲一 ほか
原作:直島翔『テミスの不確かな法廷』
脚本:浜田秀哉
音楽:jizue
演出:吉川久岳(ランプ)、山下和徳、相良健一、富澤昭文
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
写真提供=NHK