『ばけばけ』トキの心に寄り添う“親友”サワ ヘブンとのすれ違いも解消し新天地へ?

 都心でも積雪があった昨今、松江では40cm以上の積雪を観測したところもあったとのニュースを見た。トキ(髙石あかり)やヘブン(トミー・バストウ)もそれくらい厳しい冬を乗り越えていたのだろうか。確かにこの時期だけでも松江を離れたいと思うかもしれない。NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第93話は、それだけではなんとも納得し難いヘブンの熊本行きの提案が、まだ多くの人に動揺をもたらしている。

 ヘブンが家族揃って熊本に行くことを検討していることを聞いた錦織(吉沢亮)は肩を落とし、寂しそうに松野家を後にした。生まれ故郷を離れたくないトキは、そんな錦織を引き合いに出して、「熊本に 錦織さん いません。 一番大切な人ですよね」と説得する。トキは熊本のことを「縁もゆかりもない場所」と言うが、錦織はヘブンが「縁もゆかりもない場所」だった日本に来て、公私共に支えてくれた人である。彼がヘブンにとって「一番大切な人」であることは事実だ。だが、「(錦織さんは)カゾク、ナイ」の一言は、ヘブンにとって大切な人を少しがっかりさせてでも守りたいものができたことをはっきりと感じさせた。釈然としない顔をしているトキにはまだ伝わっていないようなのがもどかしい。

 次の日、少し遅れて松野家に迎えにやってきた錦織は、クマの毛皮のようなものをはじめとしてさまざまな“越冬グッズ”を持参した。「松江で冬は越せない」というヘブンをなんとか説得したいと思ってのことだろう。『ばけばけ』には、時々、この錦織のようにキャラクターたちの“鈍感さ”が垣間見えることがある。第18週で描かれた、トキの“ラシャメン騒動”が「よかったですよね、騒ぎがおさまって」と言っている三之丞(板垣李光人)もその1人。たしかに新聞にやたらとトキの名前が載ることはなくなったし、松野家に嫌がらせをする人もいなくなったから目にみえる騒動はおさまっているように見える。しかしタエ(北川景子)や勘右衛門(小日向文世)は別のこと、おそらくはもっと根深いことを心配していた。

 鈍感な人というのは、周りの動きにあまり反応しないマイペースさを持っているが、その鈍感さが自分に向くと、自分の中で抱いている感情に気がつかないことがある。『ばけばけ』においてそんな“鈍感な人”筆頭は、実はトキ本人である。「これは売り物じゃないから」と店先にあるものを下げられた。店の外で井戸端会議をしているご婦人たちが自分のことを話しているような気がする。隣の男女も自分のことを見ているような気がする。街へ買い物に出たトキは、こうしてふとしたときに他人の目が気になり、怪我をした場所がうずくように痛む。そしてうまく呼吸ができなくなってしまう。トキは人知れず、いや自分でもよくわからないほど、まだ“ラシャメン騒動”に苦しんでいた。

 トキのこのような状態は、外から見ている人ほどよく気がついたはず。ヘブンが熊本行きを提案したのは、松江にいると否が応でも“ラシャメン騒動”のことを思い出して身を固くしてしまうトキを少しでも楽にさせたかったからだ。

 「熊本に行く」ということは「誰も知らないところに行く」ということだと思っているトキに、その“利点”を優しい言葉でさらっと伝えたのはサワ(円井わん)だった。彼女は「誰も知らないところに行く」のが羨ましいという。もちろん親友のトキもいないということだけれども、そんなことはトキがヘブンと結婚したときから“いつか訪れること”として覚悟していたし、誰も自分のことを知らない環境は「一からやり直せそう」と魅力を感じている。今、誰よりも自由を求めて教員採用試験に向けて勉強しているサワらしい言葉だ。

 その言葉が突然、トキを広い誰もいない広い海へと連れていった。薄く光がさす海でゆっくりと顔を覆っていたショールを取り、深呼吸するトキ。きっとトキの心が解放された瞬間だ。この場面の、なんと美しいことか。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史、小林直毅、小島東洋
写真提供=NHK

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