『テミスの不確かな法廷』第3話とリンクする『ラストマイル』 裁判官の資質とは何か

 近年、発達障害を題材とした作品が増えているが、制作統括の神林伸太郎は取材会でこの作品の独自性について「安堂が発達障害であることをカミングアウトしていないこと」を挙げていた(※)。発達障害の特性は個人差が大きく、現れ方や程度が異なるため、カミングアウトに絶対的な正解はない。社会人の場合、確かにカミングアウトした方が合理的な配慮を得やすく、本人の精神的な負担も軽減される可能性は高いが、非常に勇気のいることだ。それは、未だ社会の側に発達障害に対する偏見や誤解が存在するからである。

 例えば、韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』では、自閉スペクトラム症をカミングアウトしている主人公の弁護士が、障害を理由に弁護を外される展開もあった。だから、安堂が裁判官になりたいと言った時、父の結城(小木茂光)が「発達障害の君に裁かれる人はどう思うか。本気なら自分の特性を周囲に隠した方がいい」とアドバイスしたのは、ある種の親心だったのだろう。

 安堂は14歳の時、検察官である結城の書斎にあった『六法全書』を読み、裁判官を志した。彼はその前年にASDとADHDの診断を受けている。世の中には暗黙ルールがたくさん存在していて、自分がそれを理解できず、知らず知らずのうちに誰かに不信感を抱かせたり、不快な思いをさせているかもしれないという事実は、きっと想像以上の恐怖だ。でも、法律は違う。何が許され、何が許されないのかが原則として言葉で示されている。安堂は安心するとともに、その明文化されたルールに則って、人々の争い事を解決することなら自分にもできる、社会の役に立てると思え、嬉しかったのではないだろうか。だが、今回の出来事で改めて自分の不甲斐なさを突きつけられた安堂は、結城に「僕には裁判官は向いていません。辞めるべきなんだと思います。そう思いませんか?」と問う。多くの子供にとって親は正義。自分に進むべき道を照らしてほしい。そんな切実な思いが、その心細そうな表情から伝わってきた。

 一方、絵里は被告代理人からの和解の申し出を断り、「最後に何があったのか。本当に父のせいで人が死んだのか。真実が知りたいんです」と裁判を続ける決意を表明する。起きてしまったことはなかったことにはできないし、失われた命はどうしたって戻ってこない。それでも、裁判で明らかにされる真実が、誰かにとっては救いになることもある。その真実に、誰よりも向き合ってきたのは安堂だ。安堂のミスが一つの可能性を潰してしまったのは事実だが、そもそも富樫が証言する気になったのは、彼の言葉で法の正義を信じてみようと思ったからだろう。裁判官の資質とは何かという問いは、第4話に持ち越される。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/12/post-2248468.html

■放送情報
ドラマ10『テミスの不確かな法廷』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送(全8回)
※毎週木曜24:35〜25:20再放送
NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定
出演:松山ケンイチ、鳴海唯、恒松祐里、山崎樹範、山田真歩、葉山奨之、小木茂光、入山法子、市川実日子、和久井映見、遠藤憲一 ほか
第2話ゲスト:山時聡真
原作:直島翔『テミスの不確かな法廷』
脚本:浜田秀哉
音楽:jizue
演出:吉川久岳(ランプ)、山下和徳、相良健一、富澤昭文
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
写真提供=NHK

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