『小さい頃は、神様がいて』渉×あんがこぼした本音 北村有起哉ならではの静かな怒りと後悔
フジテレビ木曜劇場『小さい頃は、神様がいて』第10話は、永島慎一(草刈正雄)とさとこ(阿川佐和子)のなれそめから幕を開ける。
渉(北村有起哉)とあん(仲間由紀恵)はついに離婚し、あんは「たそがれステイツ」を出て行った。どこかぽっかりと穴の空いたような寂しさを抱えながらも、住人たちはいつものように永島家に集まり、慎一とさとこのなれそめ話に耳を傾ける。エレベーターでの婚約の押し問答を含めて、スマートとは言い難いのにどこか愛おしいエピソードばかりだ。若き日の慎一がモテていたのも納得しつつ、「そりゃこの2人はこういう夫婦になるよな」と思わせるユニークな過去がさらりと描かれていく。
ゆず(近藤華)が「自分が映画監督だったら」と妄想を膨らませ、「これはハッピーエンドだね」と渉がぽつりとこぼした瞬間、場の空気が一瞬だけ固まる。そこでゆずは、みんなが気を遣って渉の前であんの話題を避けていることを、あえて言葉にする。渉が気にせず話してほしいと穏やかに告げると、あんとの思い出話が一気に溢れ出し、ついには「みんなであんの家に行こう」と盛り上がっていく。たそがれステイツ全体が、相変わらず“小倉家のこと”として離婚後の2人を見守っているのが伝わる場面だ。
一方で、あんは離婚後、初めてひとりで朝を迎えることになる。「おはよう」と声を出しても、返事はない。食卓にも、洗面所にも、誰の気配もない。これまで当たり前にあった生活音が消えた部屋で、あんはどこかぎこちない手つきで1日を始めようとする。その頃渉もまた、いつも通り会社へ向かうが、部下の男性社員が育休に入るという話を聞き、「楽しみで仕方ないです」と目を輝かせる姿に言葉を失う。自分が若い頃、この選択肢を真剣に考えたことがあっただろうか。そんな問いが、ふと胸に浮かんでしまう。今さら取り返しはつかないかもしれないが、「あの頃の自分は、もっとできたはずだ」という渉の悔しさと、それでも前を向こうとする小さな決意が、さりげないやり取りの中に滲んでいた。
ゆずは、たそがれステイツの一人ひとりにメッセージ動画を撮ってもらい、それをまとめてあんに送る。その中には、ゆずに頼んで撮影してもらった渉の姿もあった。「今、僕は怒っています」と切り出す渉。自分にできなかったこと、足りなかったこと、気づけなかったこと。その結果としてあんを追い詰めてしまったこと。そして、あんが本当に欲していた「一緒にやろう」というただ一言を、自分は最後まで渡せなかったこと。そのすべてに対して、渉は今になってようやく怒っているのだ、と言葉を紡いでいく。けれど同時に、「どうしてもっと言ってくれなかったの」と、諦めてしまったあんに対するやり場のない思いも、同じくらい強くそこにある。
責めるでもなく、ただ不器用に訴えようとする渉の表情は、北村有起哉ならではのニュアンスに満ちていた。おどおどしているのに、どこか真っすぐで、怒鳴り声とは無縁の静かな怒りが、かえって胸に迫ってくる。別れたからこそ、ようやく言葉になった後悔と、本当は今も変わらない愛情。そのどちらも抱えたまま、渉は画面越しにあんへと語りかける。
別々の場所で朝を迎え、別々の時間を過ごしながらも、互いのことを思い出してしまう。たそがれステイツの住人たちは、その揺れを茶化すことなく、しかし重たくしすぎることもなく、ちょうどいい温度で受け止めていく。“家族をやめた”はずなのに、やっぱりどこか家族のまま。離婚後という新しいフェーズに入ったからこそ見えてくる、渉とあんの本音を丁寧にすくい上げる回だった。
■放送情報
『小さい頃は、神様がいて』
フジテレビ系にて、 毎週木曜22:00~22:54放送
出演:北村有起哉、小野花梨、石井杏奈、小瀧望、近藤華、阿川佐和子、草刈正雄、仲間由紀恵
脚本:岡田惠和
主題歌:松任谷由実
音楽:フジモトヨシタカ
演出:酒井麻衣
プロデュース:田淵麻子
制作プロデュース:熊谷理恵、渡邉美咲
制作協力:大映テレビ
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/chiikami2025/
公式X(旧Twitter)https://x.com/chiikami2025
公式Instagram:https://www.instagram.com/chiikami2025/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@chiikami2025