『ばけばけ』“トキ”髙石あかりが体現した葛藤と恋の予感 小谷のしじみ汁嫌いも発覚
松江を襲った厳しい寒波がゆっくりと和らぎつつある中で、NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第49話は、トキ(髙石あかり)、ヘブン(トミー・バストウ)、小谷(下川恭平)ら登場人物たちの心がふっと緩む瞬間と、逆に言葉ではごまかせないざわめきが静かに浮かび上がる回となった。
風邪を引いたヘブンを心配したリヨ(北香那)は、見舞いとして湯たんぽを手に訪れる。初めて目にするその道具に、ヘブンは興味津々。そっと胸に抱いた瞬間、「アタタカイ! スバラシイ!」と大げさなほど感激の声を上げる。思わず笑みがこぼれるほどの無邪気さだった。リヨも、自分が役に立てたとほっと肩の力を抜くが、それを見つめるトキの表情は、どこか複雑だ。
疲れているのでは、とリヨに案じられれば、トキは静かに否定する。しかし、ヘブンが“通りすがり”の女中である自分を心配してくれたという事実が胸の奥に引っかかっているのだろう。はっきりとした言葉にはできなくとも、そこに芽生えているのは、これまで知らずにきた種類の感情だった。
一方で、小谷はランデブーの約束を前に、トキのことをもっと知ろうとサワ(円井わん)を訪ねていた。そこにフミ(池脇千鶴)、司之介(岡部たかし)、勘右衛門(小日向文世)が加わり、いつのまにか松野家総出の婿候補面談会が始まる。「小谷家は貴族なんじゃろう?」「婿入りになるが、それでもええんか?」。娘の行く末を案じるがゆえの鋭い問いに、小谷は気圧されながらも、なんとか答えていく。
サワに助言を求めながら、トキの好きなものがしじみ汁であることを聞き出した小谷。しかし、トキの好物・しじみ汁の話題が出ると、小谷は思わず顔を曇らせる。なんとしじみが苦手なのだ。松野家にとってしじみ汁は日々の食卓そのものともいえる存在で、まるで彼がこの家に本当に馴染めるのかを試す小さな試金石のようにも映った。
大寒波が去り、ヘブンの体調が回復しはじめると、錦織(吉沢亮)からは、トキへの深い感謝が伝えられる。そんな折、小谷とのランデブーの日が迫り、ヘブンはどこか他人事のように「小谷と何を話したのか」と尋ねる。怒るでもなく、嫉妬するでもない。一定の距離を保つようなその言い方が、かえってトキの胸をざわつかせる。トキも自分がただの女中であるという立場は理解している。それでも、ヘブンの内心が読めないことがかえって胸を締めつける。なぜ彼は動じないのか。なぜ自分はそれを気にしてしまうのか。トキの中で理屈では説明のつかない感情が、確かに動き出している予感がする。
恋という言葉をまだ知らない者たちの胸の奥で、静かに、しかし確かに芽生えていく“思い”をすくい取った回だった。小谷の真っ直ぐさやヘブンの無自覚なやさしさ。それらがトキの心を揺さぶり、彼女自身もその揺れの意味をまだ掴み切れずにいる。やがて訪れるランデブーが、三人の関係にどんな変化をもたらすのか。トキが気づきはじめた小さな揺れが、これからどんな形へと育っていくのか、次回を見届けたくなる締めくくりだった。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK