『ペリリュー』武田一義ら製作陣が制作秘話を明かす 「アニメにしかできない戦場映画」

 「帰還者たちの記憶ミュージアム開館25周年シンポジウム第二部【映画『ペリリュー-楽園のゲルニカ-』ができるまで】」が新宿住友ビルにて11月29日に開催され、監督の久慈悟郎、原作者であり共同脚本を務めた武田一義、プロデューサーの石川啓が登壇した。

 終戦80年の節目である2025年に公開される本作は、太平洋戦争中、すでに日本の戦局が悪化していた昭和19年9月15日からはじまった「ペリリュー島の戦い」と、終戦を知らず2年間潜伏し、最後まで生き残った34人の兵士たちを描いたアニメーション映画。『ヤングアニマル』(白泉社)で連載され、第46回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した武田による同名漫画が原作となる。心優しい漫画家志望の主人公・田丸均役で板垣李光人が主演を務め、田丸の頼れる相棒・吉敷佳助を中村倫也が演じる。

 シンポジウムでは、全員が戦後生まれの登壇者たちによって、記憶を次世代へ繋ぐ意義の下、原作誕生の経緯から映画化に至るまでの制作秘話、そして“戦争”という重いテーマをアニメーションで描くことの困難さと挑戦について語られた。

 シンポジウム第1部は、『戦没者遺骨収集と戦後日本』の著者・浜井和史(帝京大学教育学部教育文化学科教授)、『残留日本兵 アジアに生きた一万人の戦後』の著者林英一(二松学舎大学文学部歴史文化学科准教授)、そして同館館長の増田弘が登壇。「戦場の記憶、戦後の記憶」をテーマに、アジア・太平洋戦争についてそれぞれの研究テーマから語り合った。

 それを受けての第2部。シンポジウムの冒頭、原作・共同脚本を務めた武田は、本作を描くに至ったきっかけについて語った。武田は、戦後70周年にあたる2015年、当時の天皇皇后両陛下がペリリュー島へ慰霊訪問されたというニュースに触れるまで、自身がその島の存在を知らなかったことに衝撃を受けたという。その後、戦史研究家の平塚柾緒を通じ、ペリリュー島からの生還者たちへの取材を重ね、「普通の人々が戦争をしていた」という事実に焦点を当てたいと思ったことを明かした。

 また、武田は商業漫画として戦争を描くことの難しさについても言及した。「漫画は基本的に楽しむものであるが、戦争をリアルに描けば描くほど楽しさからは乖離していく」と述べ、連載当初は商業的な成功への不安から、物語を“玉砕”で完結させる可能性もあったと明かした。しかし、読者の支持を得て連載が続いたことで、玉砕後の生存者たちの過酷な潜伏生活や、その後の生還までを描き切ることができたと振り返った。

 劇場作品において初監督を務めた久慈は、戦争を知らない世代として本作を監督することへの葛藤を明かしつつ、「とても意義がある題材だ。知らないからこそ、今調べられることは全て調べる」という姿勢で制作に臨んだと語る。制作にあたり、実際にペリリュー島へ取材に赴いで感じたのは、資料で見る印象よりも島がはるかに狭いという事実であった。「縦9キロ、横3キロの島の中で、さらに限られた山岳地帯に2年間も潜んでいた」という閉塞感を肌で感じた経験が、映画の空気感を作り上げる上での指針となったという。

 本セッションにおいて特に議論が深まったのは、戦争の残酷さをいかにアニメーションで表現するかという点。現在、史実の戦争の前線を描いたアニメ映画は少なく、本作はより若い世代に観てもらうため、中学生以下が鑑賞不可となる「R15」ではなく、小学生でも助言・指導があれば鑑賞できる「PG12」区分を目指したという。石川は「過剰に残酷さを強調したいわけではないが、綺麗事にしすぎると嘘になる」と述べ、そのバランス調整に腐心したと語る。

 具体的には、人体が損壊する描写において、断面を直接見せないアングルを選んだり、爆発の瞬間の直接的な描写を避けたりするなど、PG12の範囲内でギリギリの表現を模索した。久慈は「ソフトな表現にして嘘を描きたくないという思いと、子供たちの戦争を知る入り口になってほしいという想いの狭間で試行錯誤した」と述べ、映画倫理機構のスタッフの方々から助言を得ながら、制作人全体で相談してどうにか本作品をRG12で作り上げることができたとコメント。石川は「この作品ができるまでのたくさんの人々の協力に感謝したい」と結んだ。

 原作の武田も「原作を書く時にも若い人に観てもらうという意識はとても大切にした」と語る。3頭身のキャラクターを採用した理由について、「リアルな等身で兵器による人体欠損などを描くと、読者が直視できなくなってしまう」と懸念を述べ、「デフォルメされたキャラクターであるからこそ、読者の想像力に委ねることができる」と、本作品の特徴ともいえる絵柄について言及した。

 最後に、登壇者たちはそれぞれの立場から観客へメッセージを送った。石川は「アニメへの懸念を持つ方もいると思うが、リアルの描写に迫ったものになっている。その中でアニメならではの(実写ではできない)表現にも挑んだ。そんな「アニメにしかできない戦場映画」をぜひ見てほしい」と訴えた。久慈は「ペリリュー島を美しい絵葉書のように表現したいと思った。映画を観て、そこから実際に現地に行ってみたいと思ってもらえるような、アニメと現実とつながってくれるよう願って作った」と語った。武田は、「ぜひ映画を入り口に原作、そして史実へと興味を広げるきっかけとなってくれたら本当に嬉しい」とトークセッションを締めくくり、映画への期待を誘った。

■公開情報
『ペリリュー ー楽園のゲルニカー』
12月5日(金)全国公開
キャスト:板垣李光人、中村倫也、天野宏郷、藤井雄太、茂木たかまさ、三上瑛士
原作:武田一義『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』(白泉社・ヤングアニマルコミックス)監督:久慈悟郎
脚本:西村ジュンジ・武田一義
キャラクターデザイン・総作画監督:中森良治
プロップデザイン:岩畑剛一、鈴木典孝
メカニックデザイン:神菊薫
美術設定:中島美佳、猿谷勝己(スタジオMAO)
コンセプトボード:益城貴昌、竹田悠介(Bamboo)
美術監督:岩谷邦子、加藤浩、坂上裕文(ととにゃん)
色彩設計:渡辺亜紀、長谷川一美(スタジオ・トイズ)
撮影監督:五十嵐慎一(スタジオトゥインクル)
3DCG監督:中野哲也(GEMBA)、髙橋慎一郎(STUDIOカチューシャ)
編集:小島俊彦(岡安プロモーション)
考証:鈴木貴昭
音響監督:横田知加子
音響制作:HALF H•P STUDIO
音楽:川井憲次
主題歌:上白石萌音「奇跡のようなこと」(UNIVERSAL MUSIC / Polydor Records)
制作:シンエイ動画 × 冨嶽
配給:東映
©武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」製作委員会
公式サイト:https://peleliu-movie.jp/
公式X(旧Twitter):@peleliu_movie
公式Instagram:peleliu_movie
公式TikTok:@peleliu_movie

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