『ばけばけ』“タエ”北川景子が体現した明治の光と陰 トキの“女中勤め”がついに発覚

 トキ(髙石あかり)が借金取りの銭太郎(前原瑞樹)に大金を支払ったことで、松野家に不穏な空気が漂い始めた。NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第34話では、この出来事をきっかけに司之介(岡部たかし)やフミ(池脇千鶴)らがトキを尾行し、次々と誤解が生まれていく様子が描かれた。表向きは騒がしくコミカルな展開でありながら、その裏には登場人物それぞれの「守りたいもの」や「言い出せない気持ち」が静かに滲んでいる。小さなすれ違いが重なり、家族の心の綾が立ち上がっていく回となった。

 物語は、物乞いとなったタエ(北川景子)のもとに記者の梶谷(岩崎う大)が現れる場面から始まる。「記事にしたい」と迫る梶谷に対し、タエは不快な表情を浮かべる。その様子を見た三之丞(板垣李光人)は咄嗟に庇いに入り、「見なかったことにしてほしい」と口止め料を差し出す。しかし、その金は本来トキが家族の生活費として渡した大金だった。タエに出どころを問われた三之丞は「社長になりました」と嘘をつく。見栄ではなく、愛する人を守るための嘘。だが、それがかえって彼の誇りをより深く傷つけていくことになるのは目に見えている。

 一方、松野家では、トキが多額の金を持ち出したことへの疑念が拭えず、司之介、フミ、勘右衛門(小日向文世)が彼女の後を尾けることに。花田旅館に入っていったトキが、なぜか裏口から姿を消したことを目撃した3人の不信感はさらに募る。向かった先は、トキが女中として働いているヘブン(トミー・バストウ)の家だった。

 フミたちはトキを尾行し、ついにヘブンの家の前へと辿り着く。そこで偶然出くわしたウメ(野内まる)から事情を聞き、トキがヘブンの家で“女中”として働いていることが明らかになる。驚愕する間もなく、司之介たちは勢いそのままに家へ乗り込み、トキに詰め寄る事態に。問い詰められたトキは、逃げずに「ラシャメンだが」と正直に打ち明ける。本来は錦織(吉沢亮)に誘われた際、家庭の事情を考えて受けた仕事だった。ヘブンのもとで働くことを決めたトキは、金のためではなく、“誰かを救いたい”という思いに突き動かされていた。弱い立場の人を放っておけない性分は、これまでも幾度となく描かれてきたトキの核のようなものだ。

 仕方ないと言うトキに、フミは「お金より大事なものがある」と声を震わせ、司之介と勘右衛門も怒りの矛先を錦織とヘブンへ向ける。しかしヘブンは静かに、しかし力強く彼女は妾でもラシャメンでもない。女中だと訴える。錦織とヘブンの間に行き違いがあっただけで、トキはやましい関係ではなく、ただ女中として働いていただけだった。その事実が明かされると、家族に走っていた緊張がゆっくりとほどけていく。誤解が誤解を呼び、時代背景から生まれる「ラシャメン」という言葉の重さが、今回のエピソードの鍵として浮かび上がっていた。

 そして物語の終盤、フミたちは偶然通りかかったタエの姿を見つけ、その後を追う。辿り着いた先は、荒れ果てた破れ寺。そこで彼らが目にしたのは、横たわるタエの姿だった。かつて誇り高かった雨清水家の面影はそこになく、ただ静かに、時代の残酷さだけが横たわっているように見えた。崩れゆく“家”と、それでも必死に生きようとする人々。トキの選択とタエの現実は、明治という激動の時代を生きる者たちの姿をあぶり出し、次回へと深い余韻を残した。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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