『ばけばけ』トミー・バストウ本格登場でもたらす癒やし トキは“未来の夫”に「天狗だ!」
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第5週「ワタシ、ヘブン。マツエ、モ、ヘブン。」が幕を開けた。ついに主役のふたり、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)が出会う。やがて夫となるヘブンを前にしたトキの第一印象は、「天狗だ!」だった。
明治23年(1890年)、22歳になったトキは天秤棒を担いで好物のしじみを売り歩く日々を送っていた。ある日、得意先の花田旅館で主人の平太(生瀬勝久)と妻のツル(池谷のぶえ)から、松江に外国人がやってくることを知らされる。島根県知事・江藤安宗(佐野史郎)が松江中学の英語教師として西洋人を招聘したそうだ。
そのことで松江は良くも悪くも騒がしい。未だ年季が明けない遊女のなみ(さとうほなみ)は遊郭を出るため、西洋人の妾=ラシャメンになることを決意。教師を志すサワ(円井わん)に、急いで英語を教わろうとする。そんな彼女を「恥を知れ!」と一喝するのが、勘右衛門(小日向文世)だ。およそ40年前、黒船来航をきっかけに幕府の権威は失墜し、最終的に明治維新へと繋がった。ゆえに逆恨みもいいところだが、武士の時代を終わらせた諸悪の根源として勘右衛門は西洋人に憎しみを抱いているのである。その西洋人が孫の夫になるなど、このときの勘右衛門は知る由もない。
今でこそ日本のどこへ行っても外国人を目にしない日はないが、当時はまだ珍しい存在。まして横浜や神戸などのように外国人居留地が設けられていたわけではない松江では、ほとんどの人が外国人を見たことがなかった。そのため、人づてに聞いた噂話にどんどん尾ひれがついて、面白おかしく広がっていったのだろう。西洋人は「鼻が高く赤ら顔で空も飛ぶ」「体は緑色で頭に皿があってきゅうりが好き」「金棒で殴られて食われる」と、まるで妖怪扱い。人は得体の知れないものに怯える生き物だ。
一方で、怪談好きのトキなら興味を示しても良さそうなものだが、意外にも冷めた反応を見せる。銀二郎(寛一郎)との身を引き裂かれるような別れから4年。借金を返すために働きづめのトキは、「わしゃ銀二郎か!」と自分にツッコミを入れる。自虐ネタにできるくらいには、心の傷も癒えたのだろう。だが、働けど働けど借金は減らず、新たな婿を迎えようにも離婚歴があるために縁談は期待できない。その日、生きるのに精一杯で、西洋人が来ると言われてもそれどころではないというのが本音なのではないだろうか。
そんな鬱々とした気分を一瞬にして晴らしてくれたのがヘブンだった。遊郭から出られないなみに偵察を頼まれ、サワとともに船着場に足を運んだトキ。どんどん近づいてくる船から顔を出したヘブンは、集まった松江の人々に大きく手を振る。その姿を目にしたトキはまるで一目惚れしたかのようにほうけた顔を浮かべた後、とびきりの笑顔で「天狗だ!」と叫び、ヘブンに手を振り返した。そんなトキとは対照的に、自信なさげに背を丸め、浮かない顔を見せるヘブン。ただ緊張しているのか、それとも日本を訪れるにあたって不本意な気持ちがあるのか。少々引っかかりのある出で立ちだった。
気になるといえば、トキが思わぬかたちで再会を果たした錦織(吉沢亮)の反応も。ヘブンの通訳として松江に戻ってきた錦織にトキが気になっていた教員試験の結果を聞くと、「まあ、一応は」と何とも微妙な答えが返ってくる。加えてどこかよそよそしい態度で、あまり話を長引かせたくない様子。この4年で彼にもいろいろなことがあったのだろう。これまでは同じところを右往左往してきたトキの人生もヘブンとの出会いで大きく動き出しそうな予感がする。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK