『ばけばけ』“出生の秘密”をなぜドラマにしなかった? トキの人物像が詰まった脚本の狙い
髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。
第3週では、体調を崩した傳(堤真一)の看病を続けていたトキ(髙石あかり)。その甲斐あって一時は回復の兆しも見せた傳だが、久しぶりに織物工場に顔を出した際に容体が急変し、その場に倒れ込んでしまう。
そんな中、社長代理を務めていた三之丞(板垣李光人)が、傳がトキに目をかけているのは“雨清水家の子だから”と口にする。「手放した分、愛おしくなるのなら……だったら私もよそで育ちたかった」と切ない思いを語る一方で、初めて事実を告げられたトキは「もう知っちょるけん。知っちょります、すべて」と意外な返事を返すのだった。
制作統括の橋爪國臣は「トキは“血がつながっている、いないは関係なく、みんな家族ですよ”という考えのキャラクターです。それぞれの立場や歴史があるけれど、そこに対する偏見、差別みたいなことは考えずに生きている子で。出生の秘密をどこかで知って、きっとショックを受けたとは思いますが、“人それぞれ事情があるよね”とちゃんと受け止められる子であり、それをわざわざ言う必要もないと思っていた子でしょうねと、脚本を制作しながらディスカッションを重ねました」と、このセリフがトキの人物像を強く表していると明かす。
「あそこで“実はそうだったんだ”と衝撃を受けるよりは、“私は知っていましたけど、だからなんですか?”というのが彼女らしいし、このドラマで伝えたいことに近いよねと。最初にふじき(みつ彦)さんがこの設定を考えて、それを生かすためにどうすればいいかと台本を練り上げていきました。もちろん監督や髙石さんとは『このあたりでなんとなく気づいていったんだろうね』といった話をしながら撮影しましたが、“この時点で気づいた”と明確にはしていなくて。人間って気づく、気づかないもグラデーションだと思うんです。そうかなとは思いながらも触れずにいて、最後に確信する。きっとトキも、そういうことだろうと思います」
何があっても“明るく元気な女の子”に見えるトキだが、出生の秘密を知りながらも誰にも言わずに生きてきた。そんな芯の強い女性だったのだと、視聴者がヒロインの新たな一面に気づかされる瞬間でもあった。
「このドラマは、“人間って一直線じゃないよね”ということをテーマにしています。楽しい、明るい顔の裏には、物語の主人公にだって暗い影の部分があるはずで、そういったところもすべて含めて人間ですよねと。それを表現していけたらいいなと思いますし、そこに人間の哀れみだったり、おかしみだったり、いろいろなことがあるのがドラマだと思いながら制作しています」