興収で読む北米映画トレンド

『トロン:アレス』北米No.1も苦戦 『ブレードランナー 2049』の悪夢再び

 10月10日~12日の北米映画週末ランキングは、SF映画『トロン』シリーズの最新作『トロン:アレス』がNo.1に輝いた。1982年の第1作『トロン』からは43年、前作『トロン:レガシー』(2010年)から15年ぶりの新作だ。ところがオープニング興行収入は3日間で3350万ドルと、前作の成績にも届かない厳しいスタートとなった。

 本作はカルト的人気を誇る『トロン』シリーズの第3作で、出演者にはジャレッド・レト、グレタ・リー、エヴァン・ピーターズのほか、過去作からケヴィン・フリン役のジェフ・ブリッジスが復帰。AI兵士がデジタル世界から現実へと侵食していくなか、主人公のAI兵士アレス(レト)は、滅亡の危険に瀕した世界で変化していく……。

『トロン:アレス』©2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 公開前、『トロン:アレス』は北米興収4000万~4500万ドル、世界興収8,000万~9,000万のヒットを期待されていた。製作費は1億8000万ドルと高額だが、残念ながら現時点では海外興収2700万ドル、世界累計興収6050万ドルと予想を大幅に下回っている。

 前作『トロン:レガシー』は北米興収1億7206万ドル、世界興収4億ドルを記録。本作『トロン:アレス』も秋の映画興行を引っ張るポテンシャルがあるとみられており、ディズニーは公開に先がけ、スポーツや音楽ライブなどのイベントに劇中のライトサイクルを登場させるなど、タイアップを含むさまざまなプロモーションに注力してきた。

 しかし、残念ながら結果は十分とはいえなかった。北米メディアでは『ブレードランナー 2049』(2017年)の再来といわれているように、同作は公開時期10月上旬、製作費1億5000万ドル、興収予測4000万ドルに対して実際の成績は3275万ドルという結果だから、ことごとく同じ轍を踏んでいる。

 いうなればこれは、SF映画の歴史において重要なSF映画/フランチャイズが、現在の大作興行としての訴求力を失っていた形だ。実際に客層を確かめてみると、男性が全体の約7割、年代別にも25歳未満はわずか30%と、現在のヒットの条件である「女性客」と「Z世代」をほとんどつかめていなかったことがわかる。まさしく“悪夢再来”だ。

『トロン:アレス』©2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 ただし事態をより複雑にしているのは、『トロン』シリーズをよく知るはずの45歳以上でさえ全体のわずか25%にとどまったところにある。映画館の出口調査によると、それでも観客の約半数が「『トロン』シリーズだから」映画館を訪れたと回答しているのだから、そもそもスタジオ側が見込んだポテンシャルに誤りがあったのかもしれない。AIと現実社会を題材としたSFアクションならば、もはや『トロン』でないほうが訴求力を高められた可能性はないだろうか?

 今後の期待があるとすれば、Rotten Tomatoesで批評家スコア57%に対し、観客スコア87%という高評価を得ていること。出口調査に基づくCinemaScoreは「B+」評価となったが、賛否両論ながらも観客の支持は大きいのだ。

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