“リアタイ視聴”していたあの頃のテレビは最強だった 『テレビの中に入りたい』の切なさ

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、子ども時代「ディズニー・チャンネル」と「カートゥーン・ネットワーク」に夢中になっていた佐藤が、『テレビの中に入りたい』をプッシュします。

『テレビの中に入りたい』

 “12歳のとき一番好きだったテレビ番組”を覚えているだろうか? 私は迷わず『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』と答える。この作品の魅力は、小さな違和感をさりげなく積み重ねていくところにあった。最終話でその違和感がすべてつながり、すべての怪奇現象には意味があったと明かされる瞬間は鳥肌もの。放送時間に合わせてテレビの前に座り、少しずつ観進めていたからこそ、心に染み込んだのだと思う。

 A24製作の『テレビの中に入りたい』は、大人になった今ではもう味わえない“あの感覚”を映像化した一作だ。ティーンの頃はあれほど夢中になれた番組も、大人になるとその魔法がふと解けてしまう……。若い頃の曖昧な記憶と、社会に押しつぶされそうな現実とのあいだで、かつての輝きが色褪せてしまう切なさを、この作品は鮮烈に映し出している。

 舞台は90年代のアメリカ郊外。自分の居場所やアイデンティティに悩む若者たちを描いた“自分探し”メランコリックスリラーだ。物語の中心にあるのは、毎週土曜22時半から放送される深夜番組『ピンク・オペーク』。12歳の主人公のオーウェン(ジャスティス・スミス)と2つ年上のマディ(ジャック・ヘヴン)はこの番組にのめり込み、登場人物に自分を重ねていく。しかしある日突然マディが姿を消し、オーウェンはひとり取り残される。マディの失踪と番組の放送終了が重なったことで、オーウェンは自分を見失い、立ちすくんでしまう。

 テレビと現実の境目が分からなくなったオーウェンは、テレビの中に“本物の自分”を探そうとする。現代に置き換えるなら、スマホに夢中になりすぎて、フェイクニュースに踊らされ、現実の出来事と現実がごちゃごちゃになる感覚に近いのかもしれない。が、本作が描く90年代ティーンのテレビ熱は、その比喩なんかじゃ追いつかないくらい強烈だ。2001年生まれの私には想像するしかないが、「番組の中に入りたい」と心から願ってしまうほどの没入感があったことを思い知らされる。

A24製作映画『テレビの中に入りたい』 オープニング映像

 そして何より印象に残るのが、映画の中のテレビ番組『ピンク・オペーク』の映像表現。35mmフィルムで撮った映像を、あえてVHSやベータマックスに落とし込み、何度も加工を重ねて作り直しているという(※)。『ピンク・オペーク』を作るにあたって、ジェーン・シェーンブルン監督は「皮肉や風刺を使いたくなかった。そういったテレビ番組が、自分自身や周囲の世界を懸命に理解しようとする子供たちに対して持っているパワーを軽視しないことが大事だと感じたからだ」と語っている(※)。本作が体現したのは、毎週決まった時間を待ちわびてテレビにかじりついたあの時代の熱量そのもの。懐かしさではなく、かつて心を突き動かした“あの感覚”である。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/08/post-2116271.html

■公開情報
『テレビの中に入りたい』
全国公開中
出演:ジャスティス・スミス、ジャック・ヘヴン、ヘレナ・ハワード、リンジー・ジョーダン
監督・脚本:ジェーン・シェーンブルン
共同製作:Fruit Tree
配給:ハピネットファントム・スタジオ
100分/ PG12
©2023 PINK OPAQUE RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://a24jp.com/films/tv-hairitai/
公式X(旧Twitter):@A24HPS

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