北村匠海×阿部サダヲの抱擁は『あんぱん』のひとつの到達点に “アンパンマン”の切実な思い

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』もいよいよ残り1週。第25週「怪傑アンパンマン」で描かれるのは、『怪傑アンパンマン』のミュージカル制作だ。

 「アンパンマン」と言えば、今ではアニメが一般的には有名な印象があるが、そのアニメ放送開始(1988年)のずっと前(1976年)に上演されたのが、ミュージカル。現在も、アンパンマンとなかまたちの歌とおどりがいっぱいなミュージカル形式で続く、子どもたちに大人気のステージショー。言わば、「アンパンマン」、ひいてはやなせたかしを描く上で必要不可欠なフォーマットである。

 原点が絵本であるとすれば、それをより分かりやすく、楽しく「アンパンマン」を伝えられるのがミュージカルという形式だ。ミュージカルの中で描かれるのは、戦争の残酷さとそこでそっと手を差し伸べるアンパンマンの優しさ。のぶ(今田美桜)の読み聞かせやチラシ配りの努力が花開き、初演は子供たちで大入りとなり、そこには和明(濱尾ノリタカ)親子や星子(古川琴音)の姿もある。

 “お人好し”八木(妻夫木聡)のあんぱん大口注文を受け、草吉(阿部サダヲ)が終演後、あんぱんを持ってミュージカルにやってきた。「ガキ」と言いながらあんぱんを配るあまのじゃくな草吉のスタイルは相変わらず。かつて、第1週でも草吉は、そうやってのぶや嵩(北村匠海)にあんぱんを食べさせていた。

 そんな草吉と嵩がここで久しぶりの再会を果たす。ずっとすれ違い続けていた2人。草吉の「お前も戦争行ったんだな」という一言に、ハッとする。そこまで遡るのかと。9月18日放送の『あさイチ』(NHK総合)内でオンエアとなった脚本・中園ミホへのインタビューを聞いていても痛感するのは、『あんぱん』の軸にあるテーマは戦争だということ。

 戦争を経験し、ずっと心に“棘”が刺さったままの状態で第1週から登場していた草吉は、どこか物悲しい雰囲気と、やりきれない思いを吐露するキャラクターだった。戦後の今、草吉と嵩はその思いを「アンパンマン」を通じて共有している。体育座りをして並んでいる姿は、まるで川辺を眺めていたあの頃のようだ。

 飢えた人を救う嵩が創り出したヒーローの「アンパンマン」。驚くのは、アンパンマンの丸い顔が、千尋の幼少期がモデルだということ。嵩にとって草吉も、千尋も、いつだって隣にいたということになる。

 『怪傑アンパンマン』のメッセージは、和明にも伝わっていた。嵩が作品に込めた優しさ、さらに父・岩男(濱尾ノリタカ)が戦場でリン(渋谷そらじ)に抱いた感情も、少しだけ分かっていけるような気がすると。嵩が高知にある岩男のお墓参りに行っていたエピソードが明らかになりながら、和明が話す土佐弁、そして息子を担ぎながら去っていく和明の姿に岩男を思い出さずにはいられなかった。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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