『愛の、がっこう。』最終回と思ってしまうほどの幸福なラスト “愛”のエールが動かした心

「祝福されなくても幸せですか?」
「どうかな……幸せになるために、人を好きになるわけじゃないから」

 愛実(木村文乃)と佐倉(味方良介)の会話が、この回を象徴としている。『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)第9話では、一人ひとりの“愛”ゆえの行動が道になり、愛実とカヲル(ラウール)をもう一度巡り合わせる。

 ホストクラブ「THE JOKER」に風営法違反の疑いで警察の強制捜査が入り、カヲルも事情聴取を受けることになった。担当の刑事は「いくらでも昼の仕事に就けただろう」と暗にホストの仕事を批判する。だが、識字に困難を抱えるカヲルが病を抱える弟のために大金を稼ぐにはそれ以外の方法がなかった。恵まれたルックスと愛嬌だけではなく、地頭の良さによるトークスキルを持ったカヲルにとってホストはまさに天職。

 しかし、ひとたび昼の世界に放り出されると、その無敵さを失う。裁判で重要な証拠として扱われる調書の内容がすぐに理解できず、刑事から急かされ、それでも店と仲間に迷惑をかけないように必死で読むカヲル。屈辱的だったに違いないが、ホストという仕事を失った彼はこれから何度でもその思いを味わうことになる。

 一方、どうにか実家を出て、自立への一歩を踏み出した愛実はカヲルのために行動を起こす。警察沙汰になったホストと関わっていることが明るみになれば、不利益を被るかもしれなかった。それでも担当の刑事にカヲルの事情を話し、配慮してほしいと必死に訴えた愛実の行動原理はカヲルへの“愛”に他ならない。でも、それは相手の気持ちを考えずに押し付ける自己中心的な”愛”ではなく、相手を最善の未来へと送り出す利他的な“愛”だ。

 愛実がカヲルに文字を教えたのは、彼に愛されて幸せになりたかったからではない。幼い頃から人に散々バカにされてきた過去がその表情を曇らせるカヲルに、胸を張って生きていってほしかったから。そのことに気づいた愛実は自分が最後にできることとしてカヲルにエールを送り、改めて恋に句点をつける。

 思えば、屋上での秘密の授業が始まった時、「俺も教えてやるよ、恋愛」と愛実に言っていたカヲル。その言葉通り、彼は愛実から読み書きを教わる代わりに、愛とは何たるかを教えたのだ。川原(中島歩)もまた、いつも愛実の人生を慮って行動するカヲルの“愛”を見せつけられ、自分のは執着でしかなかったことに気づいた。すっかり毒気が抜けた爽やかな顔で愛実の新居を訪れた川原は自ら婚約破棄を願い出る。「僕は全く、これっぽっちも君のことを愛していなかった」と言ったのは優しい嘘。できることなら、愛し愛されたかった。それでも痛みに耐え、見返りを求めることなく、愛実の背中を押した川原の行動は愛以外の何物でもないだろう。

 これまでは自己中心的な言動で視聴者からも反感を買っていた“川原何某”。もしかしたら、彼がこの物語で一番成長したキャラクターかもしれない。川原は愛実だけではなく、恋敵であるカヲルのことも焚きつけた。屋上の室外機に書かれた「ファイト!」というメッセージを見つける。それは、愛実からカヲルに送る“愛”のエールだ。

 人が一生の間に接点を持つ人の数は平均3万人。その多くがすれ違いで終わる中、再び見つめ合える距離に近づけた愛実とカヲルは運命の糸で結ばれているのかもしれない。これが最終回かと思うほどに幸せな結末。それだけにあと2話残っていることに一抹の不安を覚える。これから2人の前に立ちはだかるのは、世間という大きな壁なのだろう。多様性とは真逆の分断が進む今の世の中だからこそ、違いを乗り越えていく愛実とカヲルの恋はより一層輝かしく見えるのかもしれない。そんな2人の幸せを今多くの人が切実に祈っている。

木曜劇場『愛の、がっこう。』

井上由美子が完全オリジナルストーリーで描く、すれ違うことすらないはずの2人が出会い、惹かれ合うラブストーリー。高校教師・小川愛実が、文字の読み書きが苦手なホスト・カヲルに秘密の“個人授業”を続ける中で次第に距離を縮めていく。

■放送情報
木曜劇場『愛の、がっこう。』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:木村文乃、ラウール(Snow Man)、田中みな実、中島歩、坂口涼太郎、味方良介、野波麻帆、早坂美海、荒井啓志、別府由来、りょう、筒井真理子、酒向芳、沢村一樹
脚本:井上由美子
演出:西谷弘
プロデュース:栗原彩乃
音楽:菅野祐悟
制作著作:フジテレビ
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