宇野維正の映画興行分析
実写映画今年最高のスタートをきった『8番出口』 原点は『電車男』にあり!?
8月最終週の動員ランキングは、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が週末3日間で動員70万6000人、興収10億9500万円をあげて7週連続1位。公開7週目にいたっても二桁億の週末興収をキープし続けるという、前例のない完全試合的興行で夏休みシーズンを締め括った。8月31日までの公開45日間の動員は2110万2800人、興収は299億8300万円。つまり、現時点で興収300億を超えているわけだが、そのタイミングでの公式発表はなかった。興収300億などあくまでも過程に過ぎないということなのだろう。今月12日からは、いよいよ北米での公開もスタートする。
2位に初登場したのは、川村元気監督、二宮和也主演の『8番出口』。オープニング3日間の動員は67万2000人、興収は9億5400万円。この数字は、今年公開された実写映画では外国映画を含めてナンバーワン(それまでは劇場版『TOKYO MER 走る緊急救命室〜南海ミッション〜』の9億1100万円)にして、川村元気監督の前作『百花』の同期間での興収比で821%、二宮和也主演映画の前作『アナログ』の同期間での興収比で717%という成績。今回、作品に特別な追い風が吹いているのは間違いない。
その追い風をもたらしたのは優れた企画や宣伝なのだろうが(作品自体も優れているが、通常、作品の出来が客足に反映されるのは最初の週末が過ぎてからだ)、その中でもここでは本作の異例のスピード感に注目したい。というのも、インディーゲームクリエイターのKOTAKE CREATEが原作となったゲームを配信したのは2023年11月、ゲーム機向けにリリースをしたのは2024年に入ってからで、YouTubeやXなどでバズり始めたのはそれ以降のことだった。一方、配給の東宝が本作の映画化を発表したのは2024年12月。正式招待されたカンヌで初上映されたのは今年の5月。つまり、ゲームの発表から(おそらくは)1年以内に企画が動き始め、1年半で映画が完成し、まだ多くの人が最初にバズった時のことを鮮明に覚えているタイミングでこうして全国公開されているわけだ。
川村元気が最初に名前を知られるようになったのはまだ26歳の頃、インターネット掲示板で話題となっていた匿名の物語を映画化して、興収37億円の大ヒットを記録した『電車男』の企画者としてだった。その後、プロデューサーとして大ヒットを連発するようになるが、その際も他のプロデューサーとの大きな違いは、企画の選択眼だけでなく、原作やテレビドラマが世間で話題になってから映画化、そして劇場公開するまでのスピード感にあった。『8番出口』では監督、及び共同脚本を務めている川村元気だが、そういう意味では、彼のプロデューサーとしての資質と素早い実行力も今回のヒットには大いに貢献していると言っていい。『8番出口』も『電車男』同様、電車に乗った一人の男の視点から物語がスタートするのは、さすがに偶然の一致だろうが。
■公開情報
『8番出口』
全国公開中
出演:二宮和也、河内大和、浅沼成、花瀬琴音、小松菜奈
原作:KOTAKE CREATE『8番出口』
監督:川村元気
脚本:平瀬謙太朗、川村元気
音楽:Yasutaka Nakata(CAPSULE)、網守将平
配給:東宝
©2025 映画「8番出口」製作委員会
公式サイト:exit8-movie.toho.co.jp
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公式Instagram:@exit8_movie
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『今週の映画ランキング』(興行通信社):https://www.kogyotsushin.com/archives/weekend/