ラウールほど美しく画面に収まる俳優はいない “泥中の蓮”そのものの『愛の、がっこう。』

 間違った書き順で文字を書く。この身ぶりがこのドラマを象徴している。間違ったなりに、線と点をしたため、一字一句がかろうじて相手に到達する。しかし、その完了をもっていさぎよしとはせずに、書き順の訂正をおそるおそる図るがゆえにもがくことになる。砂浜に棒切れで書いた「先生げんきでな」に、愛実が句読点を書き足し、「先生、げんきでな。」と完成させる。「これは読点。文章が続くときに使います。こっちは句点。文章を終わらせるときに使うの」。愛実とカヲルは、なんども句点の「。」を打っては、また文章を書き繋ぐために「。」を「、」で上書きしてやまぬ存在だ。「愛は情け容赦がない」から。

 愛実とカヲルは先生と生徒という関係である。しかしそれは倒置されうる関係であって、愛については、そして生きる心意気については、カヲルが愛実をおのずと薫育しているのである。手ほどきの相互性は、リチャード・ブルックス監督『暴力教室』(1955年/主題歌「ロック・アラウンド・ザ・クロック」で有名)における熱血教師と不良生徒で結ばれていく友情に通じるものがある。『暴力教室』はニューヨーク・ブルックリンの荒廃した高校が舞台だった。「掃き溜めに鶴」という成句があるが、リチャード・ブルックス監督は「掃き溜めに鶴」を痛みを伴いながらも描き切っていた。

 カヲルは突如として貝のように心を閉ざして、愛実の心中に冷水を浴びせることも少なくない。環境による長い馴致は簡単には緩むことはなく、お人好しだけでは済むはずもない。その頑なさをラウールはみごとに体現する。「蓮は泥中にあっていさぎよし」という成句もある。夜の世界で妖艶に輝きを見せ、また、真っ白な蓮の花のように清廉な一面も見せる。このドラマでは意図的に白い衣裳を着用することが多いように思える。だからよりいっそうラウールの現在形は「泥中の蓮」としてあるように思える。まさに「恵まれた身体能力を使って、生身の人間を、その人の生活を、その人の愛を、喜びを、苦悩を、日常に溶け込む姿を、画面という画面に刻み込」む姿が、そこにある。

木曜劇場『愛の、がっこう。』

井上由美子が完全オリジナルストーリーで描く、すれ違うことすらないはずの2人が出会い、惹かれ合うラブストーリー。高校教師・小川愛実が、文字の読み書きが苦手なホスト・カヲルに秘密の“個人授業”を続ける中で次第に距離を縮めていく。

■放送情報
木曜劇場『愛の、がっこう。』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:木村文乃、ラウール(Snow Man)、田中みな実、中島歩、坂口涼太郎、味方良介、野波麻帆、早坂美海、荒井啓志、別府由来、りょう、筒井真理子、酒向芳、沢村一樹
脚本:井上由美子
演出:西谷弘
プロデュース:栗原彩乃
音楽:菅野祐悟
制作著作:フジテレビ
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