『あんぱん』視聴者も必見 やなせたかしの人生に影響を与えた『千夜一夜物語』とは?

 他にも大量のキャラクターを描いたやなせは、「仕事を続けているうちに、ぼくはキャラクター・デザインというのはいくらか自分に向いているのではないか、と思うようになった」と自伝で振り返っている。後に『アンパンマン』が「登場キャラクターが最も多いアニメシリーズ」としてギネス世界記録に登録されるくらい、沢山のキャラクターを生み出せるようになった源流に、『千夜一夜物語』での経験が反映されているのかもしれない。その意味でやなせの人生に転機を与えた仕事だった。

【公式】期間限定配信 千夜一夜物語

 そんなやなせでも、『千夜一夜物語』の蛇島のシーンは、大量に出てくる裸の女性が描けずスルーしていた。すると、手塚自身がすべてのシーンをキャラクター・デザインから絵コンテから自分で描いてしまった。『千夜一夜物語』を見る機会があったら、やなせの仕事ぶりと共にそうした手塚の筆跡を確かめてみるのも良さそうだ。手塚プロ公式チャンネルでは9月17日14時までの期間限定で、この『千夜一夜物語』が配信されている。。どこがやなせたかしなのか、どこが手塚治虫なのかを自分で観て確かめてみる絶好の機会だ。

 やなせは『千夜一夜物語』に美術監督としてクレジットされていて、キャラクター・デザイン以外にイメージボードを通して独特な世界観の創出に力を発揮している。杉井も含め多くのクリエイターが関わって作られている長編アニメーションだけあって、やなせのカラーが全編を彩っていることはないが、異国情緒にあふれたハイセンスな造形などにはやなせのセンスが反映されていて、エロティックなキャラクターと共に大人たちをアニメ映画に引きつけたと言えそうだ。

 『虫プロ興亡記』で山本監督は、『千夜一夜物語』のヒットが「大人ものの大衆娯楽としての長編アニメーション映画という、それまでにはなかったアニメの分野に、事業としての見通しをつけた」と書いている。その延長として大友克洋監督の『AKIRA』(1988年)や今敏監督の一連の作品、そして11月21日公開の細田守監督『果てしなきスカーレット』のような大人が楽しむアニメーション映画が生まれ、日本の世界に冠たるアニメ大国にしているのだとしたら、『千夜一夜物語』で果たしたやなせの仕事の影響は、決して小さなものではなかったと断じて良いだろう。

参照
※ http://www.style.fm/log/02_topics/top040305.html

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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