大森南朋の魅力は“目の演技”にあり 『大追跡』伊垣役で立ち上げる“多声的”な刑事像
7月よりテレビ朝日系の水9ドラマ枠で放送がスタートした『大追跡〜警視庁SSBC強行犯係〜』。『相棒』『特捜9』『刑事7人』など名作刑事ドラマを数多く生み出してきたテレビ朝日の“水曜21時枠”に、10年ぶりの新作シリーズとして登場した刑事ドラマであり、大森南朋、相葉雅紀、松下奈緒がトリプル主演を務めている。
「逃げ切れると思うなよ」。これは、大森演じるSSBCに所属する伊垣修二の決めセリフ。伊垣は3年前まで捜査一課にいたが、トラブルを起こしてSSBCに配置換えとなり、ややくすぶり状態にある。そんな中、キャリア組の名波凛太郎(相葉雅紀)がSSBCに配属となり、伊垣とバディに。また、松下奈緒演じる青柳遥は捜査一課主任であり、伊垣とは元夫婦という設定である。
本作の重要な構図は、“SSBC対捜査一課”。“デジタル捜査の最前線”であるSSBCは、防犯カメラの映像を収集して分析・解析、そこから解決の糸口を見つけ出そうとする、いわば“頭脳派”。一方の捜査一課は、“現場百遍”をモットーに、現場主義に徹して事件現場に何度も足を運ぶという、いわば“体育会系”的姿勢である。両者のアプローチは対極的であり、ことごとくぶつかりあうのが本作の見どころでもあるが、伊垣はその両方の立ち位置を経験していることから、“ブリッジ”ともいえる動きを見せる。大森はSSBCで“頭脳派”として推理を重ねていき、かつ“体育会系”として足で稼ぎ、危険も顧みず真相に突っ込んでいく伊垣というキャラクターを、リアリティあふれる演技で立体的に立ち上がらせている。
名波は「僕たちだって刑事(デカ)でしょ」「僕たちで捕まえましょうよ」と、事あるごとに伊垣を焚き付ける。「そんなこと俺たちができるわけないだろ!」と当初及び腰の伊垣だったが、徐々に刑事魂に再び火がつき、第3話では事件現場で遺体を見て「首にスタンガンの跡がある」「靴が片方ない」など、SSBCの守備範囲を超えて、捜査に加わろうとし始める。伊垣の感情や行動の変化が起き、“武闘派”の目に変わっていく様子は、まさに大森の演技の見どころの一つであろう。
また、伊垣の元妻である捜査一課の青柳は、当初「勝手なことしないでよ!」と伊垣にきつく当たっていたが、伊垣の刑事としての勘が冴え始めたことで徐々に変化し、伊垣に助言を求めるように。そして、第4話では娘の美里(今濱夕輝乃)が登場。美里に会えた時の伊垣は、ただただ“娘に甘い父”であり、仕事とは全く違うデレた表情を見せる。SSBCでの“頭脳派”としての鋭さ、体育会系の“武闘派”の顔、そして父親としての“優しさ”。大森によってさまざまな伊垣の側面が見事に表現され、その姿はまさに多声的(ポリフォニック)な刑事像といえるだろう。
大森は、1993年に映画俳優としてデビュー。その後、下積みの期間が長かったものの、NHK土曜ドラマ『ハゲタカ』(2007年)で冷徹な企業買収で“ハゲタカ”の異名を持つ敏腕ファンドマネージャー役で主演を務めたことから、その名が広く知れ渡ることとなる。これ以降、NHK大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)、『コウノドリ』(2015年、2017年/TBS系)などに出演し、『サイン -法医学者 柚木貴志の事件-』(2019年/テレビ朝日系)では難解な事件に挑む法医学者として主演を果たし、高い演技力で定評を得るようになる。