『ひとりでしにたい』はなぜ幸福な実写化となったのか 高城朝子CPに企画意図を聞く
綾瀬はるかは「とにかく人を楽しませたい方」
――印象に残ったシーンはたくさんありますが、無料婚活アプリに登録した鳴海が佐野勇斗さん演じる那須田に「裸で戦場に行くようなもんですよね」と言われるシーンで、綾瀬さんが葉っぱ隊のコスチュームで登場した時は思わず笑ってしまいました。
高城:あのシーンは大森さんから上がってきた台本のト書きに「葉っぱをつけている」って書いてあって、とりあえずそのまま綾瀬さんの事務所に台本を送ってみたんです。でもNGが出るだろうなと思って、別のアイデアも考えていたんです、お相撲さんとか。でもまさかの葉っぱでOKが出て。本当に大丈夫だろうかって思いながら本番に臨んだら、もう綾瀬さんがノリノリなんですよ。直前まで隠して、「わ!」って私たちを驚かせてきたり、「那須田くんにも見せたい」ってわざわざ佐野さんに披露しにいったり(笑)。綾瀬さんってとにかく人を楽しませたい方で、自分を綺麗に見せようと思ってないんですよね。コケるシーンも普通は本番前にカメラを回さずにテストするんですが、「こういうのは最初が一番面白かったりするから、カメラを回しておいてくれませんか」って綾瀬さんがおっしゃったので、カメラを回していたら案の定1回目が面白くて、そのまま採用になりました。
――麿赤兒さんが鳴海の不安と孤独を表現するシーンも大きな話題になりました。
高城:あそこは原作を確認すると蛇のような影が鳴海にまとわりついてたんですね。普通はあれを再現しようと思うとCGになると思うんですが、今の時代、それも逆に面白くないような気がして。それで石井永二監督が大学時代に舞台演劇を経験していたこともあり、舞台っぽいことができないかなと思って、前にお仕事させていただいた麿さんに相談したら快諾してくださったんです。衣装に関しては当初、全身白塗りのパンツ一丁で、カツラもなしにしようと監督は提案したんですが、麿さんが「それだと気持ち悪すぎる。まとわりつくんだろ? それじゃあ、不審者じゃないか」と心配され、逆に「こんなのはどうだ?」と放送で使用した素敵なカツラとドレスを見せてくださったんです。私からは「不安と孤独をお願いします」とお伝えしただけですが、麿さんが見事に表現してくださり、それがSNSでも話題になっていたので、とても嬉しいです。5話からも楽しいイメージシーンが出てきますので、是非注目してみてください、
――推し活の描写もすごくリアルで共感しますし、アイドルを追っかけて楽しそうにしている鳴海を職場の人たちが痛い人扱いせず、微笑ましく見守っている感じもいいなと思いました。
高城:そこは、やっぱり綾瀬さんが持つパワーが大きいですよね。一般的な会社であんなふうにアイドルの話で盛り上がっていたら、「痛いなー」って顔する人もいると思うんです。でも綾瀬さんが演じていると痛々しくならないし、むしろこちらまで幸せな気持ちになるじゃないですか。だから、このドラマをきっかけに「推し活っていいものだな」という認識が広まって、推し活している人たちが誰にもバカにされないで、楽しく生きられるような世の中になったらいいなと思います。
――このドラマで一緒にお仕事されて、改めて感じた綾瀬さんの魅力はありますか?
高城:「他人」というワードが頻繁に出てくるんですが、「たにん」と読むか、「ひと」と読むかで若干意味が違ってくるじゃないですか。綾瀬さんはそれを「この流れだと、こっちの方がいいよね」って、ものすごく俯瞰して設計されるんです。コメディエンヌとしても多くの人に愛されている綾瀬さんですが、そういう細かなセリフの一つひとつにも目を配って深く読み込んでいらっしゃるからこそ、『白夜行』(TBS系)のように重厚な作品もハマるし、繊細なお芝居もされるんだろうなと思いました。
――佐野さんの起用理由についてもお聞かせください。
高城:佐野さんとは『おとなりに銀河』(NHK総合)で初めて一緒にお仕事させていただいたんですが、長台詞が多かったのに完璧に覚えてきて、一度も台本を現場に持ってこなかったんですよ。それですごく真摯な方だなと思ったのと、すごく頼もしく現場を引っ張ってくださったんですよね。その後もどんどん素敵な役者さんになっていく姿を拝見して、これはぜひお力を借りたいなと思ってオファーさせていただきました。
――那須田役も難しいですよね。演じようによっては、すごく上から目線に見えてしまうじゃないですか。
高城:そうなんです。嫌なことは言うけど、悪い人には見えない塩梅が絶妙なんですよね。第2回で鳴海のもとに走ってくるシーンがあるんですが、那須田は絶対、運動神経が悪いと思うんだよねって話をしたら、佐野さんが1発で変な走り方を決めてくださって。あのシーン、すごくキュートじゃなかったですか? 不器用なだけで悪い人じゃないんだなって走り方一つで伝わったかと思います。
――鳴海の母・雅子も松坂慶子さんの持つ柔らかさもありながら、少し毒のあるキャラクターです。
高城:若い時に自分をバカにした光子(山口紗弥加)の悲惨な最期を見届けるために、遺体を確認するって結構な話ですよね。でも、人間って往々にして自分の生き方を肯定するために、正反対の生き方を否定しがちじゃないですか。だから、雅子も嫌な人に見えちゃう可能性もあると思ったんですが、松坂さんが演じているとマイルドに見えるというか。雅子だけが特別性格が悪いわけではなく、人間ってそういうとこあるよねって思わせてくれるんです。それは松坂さんのお芝居のお力なのかなと思います。
――松坂さんの役との向き合い方で感心された場面はありますか?
高城:雅子はヒップホップダンスにハマっている設定ですが、実際にダンスをしているシーンは20秒もないんですね。それなのに、松坂さんは2カ月も立ち方からみっちり練習に励んでくださって。しかも自らダンス教室に連絡して、レッスン代は自分で払うので、スタッフの皆さんには気を遣わせちゃうから秘密にしてくださいって先生におっしゃったみたいで、そのお人柄とお芝居に対する姿勢に、感動しました。あとで松坂さんご本人に伺ったんですが、ダンスをやっていると、お茶を入れたり、洗濯物を干したりする家事のちょっとした合間にもダンスの動きを入れたくなるんですって。そういう説得力が一挙一動に表れているので、細かい部分にも注目していただければなと思います。
――最後にこのドラマが残り2回でどこに向かっていくのかをネタバレにならない範囲で教えてください。
高城:一つ言えるのは、時代によっても変わってくると思うんですが、“現時点”で終活を考える時にタメになりそうな情報をできるだけ楽しい形でたくさん詰め込んだつもりです。かつ物語の根底には「どうすれば、今を自分らしくハッピーに生きられるか」というテーマが流れていますので、ぜひ最後まで安心してご覧ください!
■放送情報
土曜ドラマ『ひとりでしにたい』(全6回)
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜22:45放送
出演:綾瀬はるか、佐野勇斗、山口紗弥加、小関裕太、恒松祐里、満島真之介、國村隼、松坂慶子
原作:カレー沢薫『ひとりでしにたい』
脚本:大森美香
音楽:パスカルズ
主題歌:椎名林檎「芒に月」
制作統括:高城朝子(テレビマンユニオン)、尾崎裕和(NHK)
演出:石井永二、熊坂出、小林直希(テレビマンユニオン)
写真提供=NHK