『ひとりでしにたい』はなぜ幸福な実写化となったのか 高城朝子CPに企画意図を聞く

 NHK土曜ドラマ『ひとりでしにたい』が大きな反響を呼んでいる。本作はカレー沢薫による同名漫画を、NHK連続テレビ小説『あさが来た』やNHK大河ドラマ『青天を衝け』などを手がけた大森美香脚本でドラマ化した終活コメディー。綾瀬はるか演じる、伯母の孤独死をきっかけに終活と向き合い始めた39歳独身の主人公・鳴海の姿に身につまされる人が続出。それでいてクスッと笑える瞬間が多々あり、最後は前向きな気持ちになれる作品だ。今回は制作統括の高城朝子に、孤独死や終活などセンシティブなテーマを扱う上で心がけたことや、これまで話題を呼んだシーンの裏話を聞いた。

「孤独死を悪いものとして描かないようにした」

――SNSを中心に大きな話題を呼んでいる本作ですが、高城さんご自身は反響をどう受け止めていらっしゃいますか?

高城朝子(以下、高城):まずはホッとしたというのが正直な気持ちです。というのも、『ひとりでしにたい』というタイトルなので、私自身も最初は原作を手に取るのが怖かったんですよね。だから、視聴者の皆さんも不安があったと思うんですが、綾瀬さんが主演を務めていること、そして綾瀬さんがいろんな媒体で「笑ってほしいです」とおっしゃってくださったこともあって、安心してドラマを覗きにきてくださったのかなと思います。

――最初は怖かったとのことですが、それでも実写化に踏み切ったのはどういう理由だったのでしょうか?

高城:第3回の演出を担当した小林直希演出が「これドラマにしたら面白いと思うんです」って原作を持ってきてくれたんですよ。もちろん私も読んではいたし、大好きな作品だったたんですが、会社員で独身、猫を飼っているという鳴海の状況があまりにも自分と重なって。いつも脚本家さんとの打ち合わせで自分の経験をお話したりするものですから、これは辛いだろうなと思って、見て見ないふりをしてたんです。でも、まだ20代の小林演出が将来に希望が持てず、終活に興味を持ってこの漫画を読んでみたら、ちょっとだけ明るい気持ちになれたと。だったら、この物語を皆さんに届ける意義があると思い、勇気を出して実写化に踏み切りました。

――原作者のカレー沢さんと初めてお会いしたときはどのようなお話をされましたか?

高城:カレー沢さんには実写化が決まった後にご挨拶したんですが、普段は物静かな方で、口数が少ないんですね。だけど、天才ですから。ちょっとした事に対しても、色々な事を常に考えていらっしゃって、あとから「あの時、こういうふうに思った」っていうことをXに呟かれるんですよ。だから、私も元々はSNSをやらないタイプで見る専門だったのですが、カレー沢さんと喋りたいがためにアカウント初めてつかいまして、今ではX上で頻繁にやりとりさせていただいています(笑)。あとすごく気遣いのある方で、どうしても実写化って反発の声が出てくるじゃないですか。それはもう仕方ないことだと思っていたんですが、カレー沢さん自ら反発を抑えるムーブを起こしてくださっていて。例えば「第1回を先に観たけど面白かったよ」って宣伝してくださっていたんですが、それでファンの皆さんの期待値が上がりすぎちゃったって感じたんでしょうね。今度は旦那さんに「これは荒れそう」と言われたことをあえて公にして、ハードルを一回下げてくださったんですよ。私はそれを“計算”だと思ってますが、いつか真意のほどをご本人に伺ってみたいです。

――脚本家の大森美香さんもカレー沢さんとお会いされたそうですね。原作者の方と脚本家の方がお会いするのは珍しいような気がします。

高城:大森さんもカレー沢さんのファンで、ドラマをご覧になっていただくと分かると思うんですが、原作に対してリスペクトを持って脚本を書いてくださっているので、以前から会ってみたいとおっしゃっていたんですね。そんな時に綾瀬さんもお会いしたがってると聞いて、それならば、この機会に一度会ってお互いに不安に感じていることを解消できたらと思い、撮影の前に集まる場を設けてワイワイ女子会をしました。

――女子会! その響きだけでも、すごく楽しそうですね。

高城:楽しかったんですけど、またそこでもカレー沢さんは全然喋らなくて(笑)。綾瀬さんが「先生は休日は何をされてるんですか?」って話題を作ってくださったんですが、後日、カレー沢さんが「マッチングアプリではじめて会った人みたいなことを国民的女優に言わせてしまった」ってコラムに書いていました。ホントに面白い方ですよね。

――カレー沢さんから何かドラマ化にあたっての要望はありましたか?

高城:それが全くなかったんですよ。初対面の時点で第4回までの台本が上がってきていて、原作の出版元である講談社さんにもお送りしていたので、てっきりカレー沢さんも読んでいらっしゃるとばかり思っていたんです。でも、本当にお会いする直前まで読んでいらっしゃらなかったみたいで。これは私の憶測ですが、読んじゃうといろいろ気になってしまうと思って、あえて読まないようにされていたのかなと。だけど、私たちに会っちゃうし、感想も聞かれるだろうから、もう読まざるを得ないと思ったんでしょうね。読み始めたら一気に読んじゃいました」とおっしゃってくださって安心しましたし、大森さんもホッとした表情をされていました。

――高城さんご自身、原作があり、かつ孤独死や終活といったセンシティブなテーマを持つ作品を扱う上で、心がけていたことはありますか?

高城:原作もそうですが、孤独死を悪いものとして描かないようにしようとは思っていました。どうしても孤独死って、独身の人だけの話と思われがちですが、結婚して子供がいる人も決して無関係な話ではないんですよね。死はみんなに平等にやってくるし、その時に自分がどういう状態かは誰にも分からないじゃないですか。でも、いつかは訪れるその時を自分はどんなふうに迎えたいのかを考えることって、ひいては自分が今をどう生きたいのか、自分にとって何が心地いいのかを見つける前向きな作業だと思うんです。なので悲壮感が漂わないように、原作の持つポップさを担保しながら作りたいと思いました。

――この原作に出会う前は、高城さんも自分の最期について不安に思うことはありましたか?

高城:私は40代ですが、鳴海と同じく30代の頃に「もし今、私が家で死んだら誰が見つけてくれるんだろう?」って不安に駆られたんですね。それで怖くて寝つきが悪くなったり、朝起きた瞬間に「今日も一人か」って孤独を感じたりした時期があったので、鳴海にはすごく感情移入できました。

――以前、綾瀬さんにインタビューした際も30代の頃に一人でいることが不安になったと話していました。

高城:これは私の実感ですが、30代の頃って「本当に結婚しないの?」とか「まだ間に合うよ」とかって、やたらと結婚を煽られるんですよね。もちろん、みんな親切心で言ってくれているのは分かっているのでイラっとはしないんですが、そういうふうに煽られると途端に不安や孤独を感じて、自分がやりたいことや心地いい生き方を見失ってしまうんです。でも40代になった途端、「もうこいつに言ってもしょうがない」と思うのか、誰にも何も言われなくなってすごく気持ちが楽になりました。

――そうやって気持ちが楽になった今だからこそ、当時の自分のように不安に思っている人をエンパワーメントしたいという気持ちもあったのでしょうか。

高城:そうですね。あの頃の不安な気持ちを思い出しながら、打ち合わせもしていた気がします。

関連記事